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海と毒薬/遠藤周作

タイトルと作者は知ってるけど、読んだことなかったシリーズ!(そんなシリーズはない)

ふと図書館で手にとって読んでみました。裏表紙には定価200円、税込み214円の文字が。平成2年に刷られた本らしく、時代を感じます……。まだ消費税が3%の頃。小説もこんなに安く買えたんですね……。



いろんな出版社から発売されていますが、私が読んだ新潮文庫を貼っておきます。買うとしたら、角川のかまわぬコラボの文庫かなー。あまり文学作品らしい文学作品を読んで来なかったので敷居は高いのですが、集めてみたい気はします。


「海と毒薬」は、戦争末期に米軍捕虜の生体解剖事件に関わった人たちの話です。実在した事件が参考になっているそうです。戦争末期、人が死ぬということが、日常の一部に食い込んでいた頃。そんな中での「日常」。一人一人にそれぞれの「過去」があり、それぞれの思惑があって、とんでもない事件に関わっていました。とんでもなく残虐な出来事ですが、それに関わった人たちは「異常者」なのでしょうか。

最初の場面は、東京の新宿から電車で1時間ほど離れた場所に引っ越してきた男性の目線で進みます。昭和35年に出版された本なので、1960年頃現在の時間軸なのかなと思います。戦後10年ちょっとぐらいでしょうか。男性も戦争に行ったことがありますが、引っ越した先の人々も戦争に行った人がいて、人を殺めたことがあるのです。「一人殺せば…」という言葉がありますが、戦争ってそういうことですよね。

ゴールデンカムイを最近読んで、アニメをちびちび見ているのですが、シカのお腹の中でのアシリパさんと杉本の会話を思い出します。

重い題材に、古い文庫ならではの詰まった字、私にとって難しい漢字。おっかなびっくり読み始めてびっくりしたのが読みやすい文体です。スルスルと物語に入り込むことができました。こんなことならもっと早く読んでいればよかったと思いました。

題材が題材なだけに、ちょっと残虐なシーンもあるので、苦手な方は注意なのですが……。

少し思ったことを。なにか事件が起こったとき、その人の何がその事件を引き起こさせたのかよくお話にあがります。元からおかしい人だった、こういう経緯でこういうことを起こしたのか……自分とは違う人種だったと思い安心したいのかなと思います。私自身野次馬根性が豊富なので、そんな記事を見つけると読んじゃうんですが、そういう人ってきっとたくさんいるからいくつもいくつも憶測のような記事があがっているのかなと。

もし私がメインで書かれている勝呂と同じ立場だったとき、断れるのか。人として許されないことだと止めることができるのか。考えるだけなら簡単ですが、きっと無理だと思います。絶対に流される。湊かなえさんの「贖罪」でも同じような問いかけがあった気がします。

未だ心に重しをしたような気分なので、かなりくさくさした文章ですが……。こんな本もたまにはいいですね。今まで避けていた名作、問題作と呼ばれる作品にも手を出してみようと思えた作品でした。




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