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#04 悲喜こもごも

《ソポクレス作・藤沢令夫訳『オイディプス王』を読んで》


 「努力は必ず報われる」力強い響きに心惹かれる人も多いだろう。
 流行りのJPOP。前向きな歌詞と明るい曲調で、街中で耳にしただけで元気になれる。
 でもこういった底抜けのプラス思考が、現実をどれほど的確に表現しているだろうか。混沌とした現実のごく一部の光だけを切り取った思考はたしかに活力を与えてはくれるが、そんな不自然な活力は長持ちしない。本当に人の心を動かす表現とは何なのだろう。その一つの答えが、本作品に秘められている。
 それは、負の側面を見つめた表現だ。ギリシア三大悲劇の一つとして名高い本作品では、栄華の儚さ、運命の圧倒的な力と悲惨さ、その他諸々の人間・社会・神の「負」が浮き彫りにされる。全ての伏線がオイディプス王の一身に集中砲火される結末に、否応なく現実のままならなさを突きつけられるとともに、甘い蜜ばかり吸っていては到底生きてゆけないのだと、痛感させられた。

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