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「いつもとなりに」展に寄せて



いつもとなりに。

この1年、私もですが、皆さんもきっといろいろなことがあったと思います。

それでも変わらず日常を愛することを大切にしていきたい、という思いを込めて今回は日常の中で気軽に飾って気持ちが解(ほぐ)れるような作品、というテーマで展示品を選びました。

美術は不要不急、と、こんなことになる前もそのあとも何人かの人に言われたけれど、むしろ心は栄養を欲しているのではないか。そんな気がして、今まで以上に気持ちを込めて作品を作っています。

なんでも思い通りになんていかないけれど。せめて日々、自分の「大好き」を大事に大事に過ごしていけたら、きっと気持ちに心地よい隙間ができて、風がすうっと通るようになる。そしてどんなに胸が張り裂けそうに辛いことがあっても、また真っ直ぐに前を向いて歩いていける。

私には、そんな気がして仕方ないのです。

私事ですが、昨年末、50ヶ月の闘病・介護の末、16歳10ヶ月で最愛の息子犬は体をお空へ還(かえ)しました。

これまでも親しいお骨を幾度も拾う経験をしてきたので、私は覚悟もなにもかもすっかり準備できていたつもりでいました。

でも、予想を遥かに超えて、あまりにいつも一緒にいたから、まるで一心同体だったから、その悲しさ寂しさは途方もなく、打ちのめされました。

いつものごはんの時間、いつものお散歩の時間、何か作業をしていても、合間に様子を見に行く、あの何気ない「気にかける」動作。

この動作は本能的なもののようで、しばらくの間はふとした瞬間、つい様子を見て、息子犬の姿がそこにないことに毎回軽いパニックになりました。頭ではもう必要ない、ってわかっているのに、体が理解しない。感情が理解しない。

暑くないか、寒くないか、お腹は減っていないか、つまらなくないか、体の調子はどうだろう?心の調子は?

いつもいつも彼の「快適」を気にかけていた時間がごっそり日常から削り取られて、体がごっそり半分欠けたみたいになって、最初の数ヶ月は重力を失ったように体がふわふわしてしまって、途方にくれました。

それでも、どんなに泣いても次の瞬間には立ち上がって仕事に家事に、生きている今の日常をしっかりとこなしていくことに頭を切り替えるようにしていました。しっかりとリーダーシップを持って頼もしく立ち働く私が息子犬は好きだったから。落ち込んでうじうじしている私は嫌いだったから。

この10ヶ月、私のしてきたことは多分それだけです。ちゃんとしよう、それだけ。やせがまんでもなんでもなく、それが彼の喜ぶことだと思ったから、そうしただけ。

悲しいとか辛いとかよりも、「私たちの関係は互いに寂しさを埋めるような依存関係ではなくて、人間と犬だけれど、種族を超えて互いを思い合う本気の愛なのだ」ということを(誰にというわけではないけれど)証明したいという気持ちが強かったのかもしれません。

そうして日々を過ごすうちに、気がついたことがありました。

ここに体があってもなくても「大好き」も「愛おしい」も、想いは何ひとつ、変わらないということ。

実質的なお世話はもうできないし、フカフカの体に顔を埋めて一緒に笑い合うこともできないけれど、大好きだから、喜んで欲しいと変わらずに今も毎日、思っている。喜んでくれるかな、と思いながらお花を生けたり、自分が笑えるようなことをする。笑っている私を見ると心底嬉しそうに目を細めていたから。

不思議なことですが、49日が過ぎ、百箇日が過ぎた頃、それはあちらも同じなのかもしれない、と思うようになってきました。

日常のいろんな瞬間に体がここにはない息子犬の気配を感じては、ああ、今も全く変わらず私のことを愛してくれているんだな、いやむしろこんなにも愛されていたのか!とものすごく感じるのです。

…この感じ、きっととても愛し合った相手(人でも動物でも)を亡くした経験のある方にはわかってもらえるのかもしれませんが、目には見えなくてもそう感じる、としか言いようがないです。

もちろん寂しいけれど、もう一人じゃないと思えるから根源的なところでは全く寂しくない。もうずっと、誰がなんと言おうと永遠に好き同士なんだということが、たまらなく哀しいけれどたまらなくしあわせで、不思議なほど涙も出るのに笑えてきます。自分で自分の哀しみをしっかりと大切に抱きしめているから、誰の慰めもいらない。そのことが、誇らしくすらあります。

おかげで、自分の「残り時間」と与えられた日々を丁寧に愛しながら生きていきたいと、とても強く思うようになりました。

この思い、これからの世の中で、きっと何よりも強い。なんとなく、そんな予感がします。

写真は、展示会場限定で受注予定の小さなブロンズ彫刻作品「仔犬」。   
 「いつもとなりに」展の詳細はこちら→《 2020/展示のお知らせ 》

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