見出し画像

希望と狂気

左手の爪を全て剥がした
血まみれの痛みを
利き手じゃないから
いいでしょうと言う

熱帯夜から程遠い
甘やかな春の夜の香が
奥底に眠っていた狂気の
蕾を開花させようとしている

ねばねばとした若葉の緑の
裏切りに似た香り
諧謔の夜であった冬が遠く
何者かであろうとしたい春が来る

愚かさが激しく押し寄せる
時遅れをぼやかせる
桜色の霞

それでも憂いは刻まれている
暗闇は木々の影に
土はまだ冷たいままに

相克の下に
狂気は至る
白面の一途とは
唯、真っ白に社会を見失った者

鳴り響く
または真空の
何も見えず何も聞こえず
そして
幻だけに足を踏み外した者

春が囁いている
進め 進め
夢のままに
希望のままに

それがどれほどの
希望或いは過ちに満ちていても
神に見放された者たちは
この社会に似合わないという
その一点で病気となった