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裸の王様


真白いテキストフィールドでは
誰だって
傷一つなく
言葉を始める

好きなだけ語り
展開して試みて
己だけの論理を構築することが
赦されているから

突き詰めて削り磨き
たった一つの頂点へ
一人だけの空を
手に入れようとして

ふと
不安の黒い雲が流れる
もしかして
偽物であるかも知れないと

誰かに
この担保を委ねたい
己の愚かさの程度を
試してみたいと過る疑念

透明な光が
影を射す
控えめな輝きが
秋の空を満たしている

西風がふいに強く
吹き抜ける
誰にも届かない郵便が
秋の茜に遠ざっていく

幼いころの夢は
秋の陽に照らされた
金木犀の甘い香り
やがて集う夕べ

幻想と虚構の中でしか
保ちえなかった自尊
物語たちは
上辺の幸せすら
知らなかった日々の所産

それらはリークなのだ
公にしたくなかった
私事の秘密たちの
危険だけを記した
素直な予知の物語

残酷すぎるほどの
美しさの光に包まれて
裸の王様が嗤っていた
知る術のないことを
見せつけられて
楽しいはずがなかろうと