感動短編小説 ピョッピピ村の だいそうどう
感動短編小説 ピョッピピ村の だいそうどう
おれの名は証(あかし)やSANMA。サイバーシティ・銀河系世田谷で、しがない探偵業を営んでいる。
といっても実際には何でも屋で、逃げたペットの捜索から逃げないペットの散歩まで、やることはさまざまだ。
おれの事務所は銀河系世田谷の、モスバーガー銀河系世田谷店の二階にある。一階のモスバーガーの厨房を通らないと入れないつくりになっており、これが一種のハードルとなっているのか、冷やかしみたいな客はほとんど来ない。
ある日、おれが事務所でやぶれた靴下にフェルトをかぶせ、ボンドでくっつけて修復できないか苦戦していたところ、一人の美女が飛び込んできた。
変装のつもりか、ニット帽をかぶりサングラスをかけていたが、マスクはしていなかった。適度に厚いセクシーなくちびるがまるみえだ。
ノーマスクの理由は不明。
潜在意識下に、「ファンに見つかりたい」という気持ちがあるのかもしれない。
服装もグレーで統一され地味だったが、スタイルの良さは隠せない。
それに、何といっても顔が小さい。顔の小ささは生半可な変装ではどうにもならない。
彼女が雑踏を歩けば、縮尺のそろった人形の中に違うフィギュアを置いたような違和感が漂うに違いない。
彼女がサングラスを取ったら、薄汚い事務所は「この女性を映えさせるために、あえて汚くしました」みたいに変貌した。
美女は、人気女優の度美鳥(どみとりー)奈緒海だった。
度美鳥(どみとりー)奈緒海の依頼は以下のようなものだった。
彼女の恋人である「ヘラヘラ亭みじんこ太夫」を救ってくれというのだ。
ヘラヘラ亭みじんこ太夫は、まったく売れない大道芸人だった。
ただし、大手事務所(度美鳥(どみとりー)奈緒海の所属しているところだ)の女社長が彼を気に入り、俳優として売り出した。
女社長がみじんこ太夫を気に入った理由は不明だ。なにしろみじんこ太夫は、まあ少々イケメンかもしれないが、男から見ると、薄っぺらいヒモにしか見えなかった。
やる芸も、ありきたりなお手玉だけ。
過剰に、しかも高速で尻を振って歩く姿も、イライラした。
あまりに高速なので、扇風機の羽が回転するときみたいにみえるときがあるのだ。
実家は歯医者で、高校のときにグレて上京し、親への当てつけで大道芸人になったという、ロクでもないやつだ。
そんなコイツが、「アメリカの悪口を言いまくる」というギャグをまじえた漫談をテレビのネタ番組などで始めた。
これがバイデン大統領の怒りを買い、暗殺されようとしているという。
日本警察はバイデン大統領から毎月、大量のチュッパチャプスを送られており、みじんこ太夫のボディガードをきっぱり断ったというから、度美鳥(どみとりー)奈緒海には民間探偵のおれくらいしか頼る人間がいないのだそうだ。
「まかせろ」
おれはひと言、美人女優にそう言うと、愛車の三輪車にまたがりバイデン大統領が最も信頼しているスナイパー・スカルサタン五世のいるロサンゼルスん向かった。
しかしロサンゼルスに三輪車で行くことはできなかったので、空飛ぶ絨毯で行った(急にファンタジー)。
スカルサタン五世は、家の屋根から顔を出してのんびりする習慣があった。
彼の家の屋根には、頭ひとつぶん、出せるくらいのフタ付きの穴が開いているのだ。
おれは、屋根の上から顔を出しているスカルサタン五世の頭を、「封印されし神の聖剣・シルバーブレード」で横なぎにちょんぎった。
首はぽーんと飛んで、ポシャッ、と彼の家のプールに落ちた。
任務完了。
おれは帰宅し、シャワーを浴びてからモスバーガーの二階にある事務所に度美鳥(どみとりー)奈緒海を呼び出し、彼女から報酬の三万円を受け取った。
だが、「もうあんなどうしようもないやつとは別れた方がいい」と言うのは忘れなかった。
三か月後、ヘラヘラ亭みじんこ太夫は、ソーセージパンを盗んで逮捕され、人民裁判で死刑となった。
日本の死刑制度が、世界でいちばん過激になった時代に生まれたのが、みじんこ太夫の不運だった。
度美鳥(どみとりー)奈緒海は、ショックで女優を引退。
ヘラヘラ亭みじんこ太夫をかわいがっていた女社長も退任。
代わりに、せんだみつおのお面を付けてぜったいに取ろうとしない謎の男が社長に就任し、明け方の路上で映画「悪魔のいけにえ」のラストシーンの「レザーフェイス」みたいに、ずっと踊り続けていた。
なお、ヘラヘラ亭みじんこ太夫の故郷であるピョッピピ村では、村人は深く悲しんだという。
村民の怒りのやり場がなく、おれが悪いことになっているらしい。
やれやれ。
ハードボイルドもつらいぜ。
おしまい
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