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だれからもきらわれているのかもしれない

アニメ映画「すずめの戸締まり」がかなり早い時間から上映していると知り、午前8時頃からの回をネットで予約。
急いでいたし、満員電車に乗りたくないのでタクシーを呼ぼうと思ったら、雨が降ってきて東京無線に電話がつながらなくなった。
「経験上、こういう場合は外でタクシーを拾った方がいい」と思った私は、そぼふる雨の中、家を出て大通りに向かった。
予想どおり、タクシーがやってきたので拾って乗り込み、新宿へ向かう。

しかしタクシーを出て歩き出すと、路面がすべっていたので、雨の中、映画館の前で盛大に転んでしまった。
こういうときに「今日は厄日か?」などとは思わないのが私だ。
映画館に入ってチケットを発券し、観たくもない映画の予告編を何本も見せられ、やっとのことで観たい「すずめの戸締まり」本編が始まった。
しかしそのときに、ポケットの小銭入れがないことが気になりだした。

私は札入れと小銭入れを別にして持ち歩いている。だからタクシーの代金は札で支払うことができた。
映画館の前で転んだ際、ポケットの中に小銭入れがないことに気づき、転んだときに落としたのではないことは確認していた。
たぶん自宅に忘れてきたのだろう。

チケットは買ってしまったし、映画館には入ってしまっている。映画は長くても二時間半、その後、すぐに家に帰れば小銭入れの場所は確認できる。

そう思った私は、スクリーンに集中した。
しかし映画序盤の段階で、アニメ作品内で「緊急地震速報」の音が鳴り響いた。
何とも言えず不安になるあの音である。
もちろん、作品内で地震が起こったからなのだが、それで一気に不安になった。
さらに、バッグに入れたペットボトルのほうじ茶を映画館の暗闇の中で落としてしまい、床を見渡してもなかなか見つからない。

このときにはもう映画に集中するのは無理だと悟っていた。闇の中、床に転がったペットボトルをやっと見つけ出すと、映画の序盤も序盤に私は映画館を出た。

帰宅し、小銭入れが自室に転がっているのを確認した後、ヒマそうな知り合いに電話して、コトの顛末を話した。
知り合いは電話口で、私のイライラを感じ取った様子もなくのらりくらりと電話に応じており、そのうち話は変わって、「現代に自閉症児が多いのはワクチンのせいだ」とか言い出した。

こいつ、完全にバカである。
そんなわけねぇだろう。バカも休み休みに言え。
ここでスイッチが入り、私はそいつ自身がいかにバカであるか自覚させるため、いろんなことをコンコンと話した。
そいつが、スター・ウォーズは黒澤明がつくっていると信じていたこと、漫才のネタの中でのケンカを本当のケンカだと思い込んでいたこと、ダイエットをする、と言い出し「今後はぼたもちしか食べない」と言って一日にぼたもちを五個ずつ食べて10キロ太ったことなど。

そうしたらガチャン、といきなり電話が切れて、なんだ怒ったのか、肝の小さいヤツだ、と思っていたら、そいつがうちに直接たずねてきた。
「あんなことを言うなんて、ひどいじゃないか!」
玄関口でえらく怒っていたので、射殺した。
こんなときのためにトカレフを持っていて良かった。

トカレフとフカヒレってなんか関係があるのかな、と哲学的思索にふけろうと思ったがその前に死体をかたづけないと。

死体は私の怪力で振り回し、思いきり遠くにブン投げたが、一本向こうの通りに建っているマンションの屋上に乗っかってしまった。

面倒なのでほおっておき、スーパーマリオのすごろくで一人遊んでいたら、そのマンションの管理人から電話がかかってきた。
内容は死体のことではなく、ワクチンがどーのこーのとか、京王デパートは現代のパワースポットだとかほざいていたので、家の窓からマンションに向かって手榴弾を結び付けた矢を打った。

矢ははずれ、マンションの隣の家が爆発した。

その衝撃でマンションの屋上の友人の死体が生き返り、ひと言、

「よそう、また夢になるといけねえ」

おしまい

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