見出し画像

クピッペ太郎のだいぼうけん

やあ、おれの名はクピッペ太郎。
46歳まで公務員をやっていたが、「めちゃモテ委員長」を読んで一念発起、
砂金を掘るために南阿佐ヶ谷から、はるばるとここ・中野新橋にやってきた。

ところがどうだ、砂金どころか、ファンタジーものによく出てくる、冒険者に仕事を紹介してくれるところもないではないか。

駅前には「とろろ昆布専門店」が十軒ほど並んでいて、どうやら中野新橋は「とろろ昆布」激戦区のようであった。

「ウヒヒ、よいではないか、よいではないか、ここへ来て酌をせい」
酒に酔った浪人とおぼしき侍が、町娘にしつこくからんでいる。
浪人と町娘がいるのは、中野新橋駅近くの、公園とも言えない「公園風(ふう)」のせまいスペースだ。

「やめろおおおおおおおおおおおっ!!」

おれは、瞬時に浪人の首を、持っていた大剣で切り飛ばした。
浪人の首はクルクルと回転しながら宙を舞い、そのまま空の果てに消えていった。
「きゃああああああっ!!」
町娘は悲鳴をあげていた。無理もない、浪人の、頭と生き別れになった胴体の切り口から、ブシャーブシャーと血がマグマのようにあふれ出て、それがざばざばと町娘の頭に降り注いだのだから。

私は町娘の襟首をひっつかんで、思いきり背後から引っ張った。
首の切り口から噴水のように血を放出している浪人の死体からひきはがしてやったのだ。

すると町娘は我に返り、私の顔をビンタした。
「どうしてこんなことをするのですか!? 確かに私はからまれました。けれど、彼が殺されるほどのことをしたでしょうか?」
町娘はそう言って怒った。その顔は有村架純似の美人であった。
怒った顔もまた美しい。

そう思っていると、斬り飛ばした浪人の首が、空中に現れた。
飛ばされてから、どういう原理か戻って来たらしい。
「よくもやりやがったな! これでも食らえ!!」
浪人の首は、口から何かを発射した。
それは空気に触れるといきおいよく燃え上がる何かの燃料だった。
つまり、何かが浪人の口から飛び出すと、とたんに引火して火の玉となって襲ってくるのだ。

私はその火の玉を手でさらりとはらいのけ、日本舞踊のような華麗な動きで、町娘をかばいながら「超高速ムーンウォーク」でその場を後にした。

何しろ、私にはゴールドラッシュが待っているのだ。砂金を掘らなければ。

さて、なんだかんだあって、私ことクピッペ太郎、首がいつでも飛び出せるようになった浪人、そして町娘のボゴガ・ンベゴバ(さきほど出て来た町娘とは別人)の三人は、協力してズベンバ・ボロビビーンとオードリー・ヘップバーンが残した秘宝、ヘーヘヘン・ヘッヘヘーンを探す旅に出た。

その物語は文庫本で全52巻、角川文庫から「読んでから観るか、観てから読むか」のキャッチフレーズとともに三分のミニ映画として、TOHOシネマズ新宿で上映された。

それは、
「ヘーヘヘン・ヘッヘヘーンは、人々の心の中にあった」
という肩透かしの結末であった。

私は故郷に帰ることにした。もういつまでも夢ばかり見ている年齢でもない。
私はすでに58歳になっていた。
田舎に帰って親孝行しよう。
そう思い、東京駅から晴海に直行するバスに乗ったが、すでに晴海国際貿易センターはなくなっていた。

かつてのコミケの様子が走馬灯のように私の脳裏をかけめぐり、あふれる涙をおさえつつ、私はとにかく故郷の方南町に帰ることにしたのだった。
(方南町は中野新橋のすぐ近く、というギャグです。)

それじゃあみんな、しゅーくだい、やっややってー、おーふろに、入り入ってー、オードリー・ヘップバーンの映画を観て―、ケーケケケ、ケッケケーン、と笑いながら布団に入ってお眠りなさい。

おしまい(おーしまい、しまままーい)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?