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週刊レキデンス~第3回~

週刊レキデンス第3回目です。

第1回、2回と幕末までのオピオイドを中心にした乱用にまつわる歴史を書いてきました。今回は、現代における薬物乱用について書いてみます。

それではいきましょう!

薬物乱用の原因になるものは、モルヒネだけではありません。モルヒネを含めた麻薬、覚醒剤、向精神薬、大麻など沢山あります。この様々な薬物による乱用はどの様な経緯を辿ったのでしょうか?そして、麻薬は違法な麻薬だけではなく、医療用麻薬は日本でどの程度使用され、諸外国と比べてどうなのか?そしてそこから見えてくる問題点について見ていきます。


<日本における薬物乱用はどのような経緯を辿りましたか?>
日本では、アルコール以外の薬物が乱用された歴史は浅く、臨床的に乱用者とされる人が表に出てきたのは、第二次世界大戦中~後が多いとされています。この時期に乱用者が増えた理由として、第二次世界大戦時中から①隊員の気分の落ち込み②落胆③疲弊の回復目的に対して覚醒剤である「メタンフェタミン(ヒロポン®)を使用していたことが関連しているのではと考えられています。(1)因みに、ヒロポン®という名称は、「疲労がポンと飛ぶ」ではなく、「ギリシャ語の Philo (好む) Ponos (仕事)」(2)よりつけられたものだそうです。
その後、戦後日本が復興期を終え産業社会期に入った1956年前後は一旦覚醒剤乱用が下火になりだします。それと入れ替わるように、1957~1958年頃に、ヘロインをはじめとする麻薬乱用者が増加。その後、モルヒネなどの医療用麻薬乱用者の検挙数が、1963年麻薬取締法改正の罰則強化により、全体の14.2%から23.2%に増加。更に1962年麻薬対策強化の決議対策本部設立。1963年刑を無期懲役まで引き上げの改正、麻薬相談員の増員などを経て1963年をピークにヘロイン乱用者は激減しました。(3)

ここでまとめると、第二次世界大戦中~後は、覚醒剤。その後は入れ替わって麻薬(ヘロイン)。ヘロイン乱用者の減少は、①日本が高度経済成長期に入った②法整備が整った、この2点が要因として考えることが出来るんですね。

<乱用の現状>
では、近年の麻薬を含めた薬物乱用に対する検挙者の推移はどうなっているのでしょうか?厚生労働省のページから調べてみると、麻薬の検挙者数は、ここ2~3年は横ばい。その他も大きな山はなく横ばいですが、麻薬よりも覚せい剤の検挙者数の方が多いのが特徴的です。更に、覚醒剤事犯の再犯率は、平成19年以降連続で増加しており、平成30年は66.1%となって、約半分以上が再犯(4)をされていることから覚醒剤は依存性が強く、薬剤師としても薬物依存症になられた方に対して治療をサポートする必要性があることをとても感じます。

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図:現在の薬物乱用の状況|厚生労働省

<緩和領域における麻薬の使用率>
次に、医療用麻薬の使用量について国立がん研究センター(6)や厚労省(7)のデータがあります。日本で疼痛治療を行うための麻薬(主にモルヒネ)の使用量は全世界で比較すると少ない傾向にあります。
また、日本医師と米国医師を対象にしたオピオイドの処方頻度について回答をまとめた文献によると、「急性の痛みにオピオイドの処方:49.4%対97.0%、慢性の痛みにオピオイドの処方:63.7%対90.9%、いずれもP<0.001」(8)という結果がありました、この様に日米ではオピオイドを導入する敷居が異なります。
また、一般の方に対する世論調査として、①医療麻薬に対する意識について:「正しく使用すれば安全だと思う」48.3%、「正しく使用すればがんの痛みに効果的だと思う」47.5%、「最後の手段だと思う」30.4%、「だんだん効かなくなると思う」26.8%(9)
②がんによる痛みで医師からの提案後医療用麻薬の使用について:「使いたい」39.5%、「どちらかといえば使いたい」27.9%、「どちらかといえば使いたくない」22.0%、「使いたくない」7.0%。(10)であった。
 これらの様に、処方する医師側の意識と使用する患者側の意識に加えて、日本には麻薬向精神薬取締法によって流通が厳しく取り締まっている事も含めて、日本では、麻薬の使用量が少ないのかもしれません。

ここで1つ流れが変わりそうな件があります。
今まで日本のオピオイドの使用は、がん性疼痛のみでしたが、2010年に非がん性慢性疼痛に対して、フェンタニル貼付剤が適応になりました。この後も複数の医薬品が慢性疼痛に対して、適応が認可されています。これによりオピオイド処方のハードルが下がり後々、米国のオピオイドクライシス(米国社会の危機的状況)のような使用率増加と過量投与による死亡率増加に繋がらないように、医療者全体が慎重に対応していく必要があるのではないでしょうか。

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図:第4回 大麻等の薬物対策のあり方検討会 令和3年3月31日 厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策

1)戦後直後の覚せい剤蔓延から覚せい剤取締法制定に至る政策形成過程の実証研究 西川伸一 明治大学社会科学研究所紀要, 57(1): 1-24
2)大日本製薬六十年史編纂委員会編 1957:128
3)日本における依存性薬物乱用の動向 加藤 正明 臨床薬理 1974年5巻2号 100-103 DOI https://doi.org/10.3999/jscpt.5.100
4)平成30年における組織犯罪の情勢
5)現在の薬物乱用の状況|厚生労働省
6)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/backnumber/2019_jp.html
7)第4回 大麻等の薬物対策のあり方検討会 令和3年3月31日 厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策
8)Onishi E,et al.J Am Board Fam Med. 2017 Mar-Apr;30(2):248-254.PMID: 28379832.
9)がん対策・たばこ対策に関する世論調査 
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-gantaisaku/index.html

10)平成28年度がん対策に関する世論調査 4 緩和ケアについて. 2017年1月30日.
https://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-gantaisaku/2-4.html

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