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新規 MR拮抗薬 どこに向かうのか?

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(以下、MR拮抗薬 別名:Mineralocorticoid Receptor Antagonists :MRA) であるスピロノラクトン、エプレレノンの大きな特徴は「ステロイド骨格」を持つ MR 拮抗薬で、高カリウム血症リスク増加や性ホルモン作用が生じてしまいます。

受容体選択性

この課題を少しでも改善しようと開発された薬がエキサセレノンフィネレノンです。
この2つの薬は、非ステロイドMR拮抗薬です。非ステロイド骨格 MR 薬は本当に糖質コルチコイド受容体作用や性ホルモン作用が弱いのでしょうか?
ここに一つの薬理学的データがあります。単位は IC50(nM)

とされていることから、エサキセレノンは非ステロイド骨格の MR 拮抗薬として、GR 作用を弱くさせた薬として判断する事が出来そうです(1)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 の新たな道

現在、エサキセレノンの適応は ESAX-HTN Study 結果を基にした高血圧症に留まっていますが(2)、ARB/ACE 阻害薬を投与中の早期糖尿病性腎症患者 455 名を対象に、エサキセレノンの有効性及び安全性を検証した臨床試験が行われました。(ESAX-DN試験)主要評価項目はプラセボを対象にした、治験薬投与終了時の尿中アルブミン/クレアチニン比(以下「UACR」)の寛解達成率という代用のアウトカムですが、有意に高い事が示されました。22% vs 4% 差18%(12%-25%) P <0.001 (3)

恐らくこの試験結果から、エサキセレノンの糖尿病腎症に対する承認申請を将来的に第一三共は行うのではないかと思われます。 

それに対していち早く糖尿病性腎症に対して適応を通してきた医薬品が フィネレノンです。フィネレノンもエサキセレノン同様、非ステロイド MR 拮抗薬です。

フィネレノンは承認に繋がる 2 つの臨床試験結果が出ています。1 つはFIDELIO-DKD 試験、もう1つは FIGARO-DKD 試験 どちらも慢性腎不全(以下、CKD)と 2 型糖尿病(以下、T2D)を持っており、既に ACE-i/ARB で治療中の患者を対象にしています。

DKD:diabetic kidney disease 

何故高血圧ではなく CKDとT2Dを持った糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease 以下、DKD)がターゲットなのでしょうか?


糖尿病の約 40% が DKD を患っており、慢性腎臓病の主な原因になっています。(5)
1980 年代
の DKD 治療においては、微量 Alb 尿を呈する症例の多くが 10 年後、高確率で顕性 Alb 尿を呈し、更に GFR の低下へ進展するとされており、微量 Alb 尿発症をいかに予防するかが焦点になっていました。
しかし、2000 年代になると、糖尿病患者への RAS 阻害薬の有用性のエビデンス構築、血糖や血圧、脂質のコントロールによる Alb 尿を顕性から正常への変化が報告されるようになってきました。更に①顕性 Alb 尿を呈する以前から GFR が低下②顕性 Alb 尿を呈しても GFR が低下しない③正常 Alb 尿のままGFRが低下する、など様々な臨床経過を示すことが分かってきました。(4)

そのため、「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018」(6)では、DKD は典型的な糖尿病性腎症に加え,顕性アルブミン尿を伴わないまま糸球体濾過量(GFR)が低下する非典型的な糖尿病関連腎疾患を含むものを DKD としています。

「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018」(6)より作成

従来は、ACE-i や ARB など RAS 阻害薬を使用することで、Alb尿などを減らす事が知られていますが、根本的な腎機能低下を減らし、心血管イベント等を減少させる薬はありませんでした。
そこで白羽の矢が立ったのが SGLT-2i や DPP-4i、GLP-1A などの糖尿病薬、更に非ステロイドミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。

2つの臨床試験結果

まずは、プラセボ対照に腎アウトカムをメインにみた FIDELIO-DKD 試験。(7)こちらは、腎不全、腎死亡、eGFRの40% 持続低下 という3つを複合アウトカムにして見た試験です。
結果そのものは統計学的な有意差を示しましたが、複合アウトカム1つ1つを見ていくと腎不全と腎死亡に対しては有意差が示されていません。eGFR40% 持続低下という、いわば代用のアウトカム寄りの結果のみが有意差を示しており、このアウトカムに複合アウトカムが引っ張られてしまっているのではないかと考えることが出来ます。
HR:0.82(0.73-0.93) P=0.001  eGFR40%減少 HR:0.81(0.72-0.92)   腎不全 HR:0.87(0.72-1.05) 腎死亡 無し

続いて、心血管死亡率、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院の複合を主要アウトカムに迎えて行われた、FIGARO-DKD 試験。 (8)
こちらも主要アウトカムそのものは統計学的な有意差を示しましたが【HR:0.87(0.76-0.98)】、1つ1つのアウトカムを確認してみると「心不全入院」のみが有意差を示しています。
<結果>
心血管死亡率:0.90 (0.74–1.09)、非致死的心筋梗塞:0.99 (0.76–1.31)、非致死的脳卒中:0.97 (0.74–1.26) 

心不全入院は確かに入退院を防ぐことで心不全の死亡率を将来的に下げる効果を示していると考えることが出来ますが、今回は心不全症例をメインに見た試験ではありません。ソフトエンドポイントのアウトカムです。あくまで糖尿病腎症を対象にしていますので、この「心不全入院」が主要アウトカムの結果を引っ張ってしまっているこの試験結果は、そのまま現場に当てはめるのはまだまだ難しく注意が必要な薬である事が考えられるのではないでしょうか。

まとめ

新規 MR 拮抗薬は、高血圧をメインに使用するよりも DKD といった腎症に対して使用することが分かってきました。ただし現時点ではエビデンス量も少なく「使える薬」としてはまだまだでしょう。 
今後の試験結果を待つ必要があると思われます。

参考:

1.Eur J Pharmacol. 2015 Aug 15;761:226-34. PMID: 26073023
2. Hypertension. 2020 Jan;75(1):51-58.PMID: 31786983
3.Clin J Am Soc Nephrol. 2020 Dec 7;15(12):1715-1727.PMID: 33239409
4.Pharma Medica 34(6):15-20 2016
5.Adv Chronic Kidney Dis. 2018 Mar;25(2):121-132.PMID: 29580576 
6.日腎会誌.2018;60:1037—193
7.N Engl J Med. 2020 Dec 3;383(23):2219-2229.PMID:33264825 
8.N Engl J Med. 2021 Dec 9;385(24):2252-2263.Epub 2021 Aug 28. PMID:34449181 

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