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「勝手にDI室」第108回薬剤師国家試験と現場の架け橋①

※この記事は、一部妊婦および妊娠の可能性のある方へのリスクについての記載があります。 服用中の薬について不安感を抱いた方は、必ず、かかりつけの医師や薬剤師にご相談ください。

2023 年 2 月に薬剤師国家試験 108 回が執り行われました。

私たち学生実習に関わるものや医療現場で働くものとして、最新の国家試験を見ていくことで、学生や薬剤師に問われている問題点、流行、トレンドなどを掴むことが出来ます。 早速見ていきましょう。

問題

108回-問186
37歳女性。高血圧症があり、処方1の薬剤服用していた。今回、来局した時に「この度、結婚することになり、できれば子供も欲しいと思うようになった」と話していた。対応したかかりつけ薬剤師は、処方期間中に妊娠に関する可能性を考え、処方医へ薬剤変更を提案することにした。最も適切ね薬物はどれか。1つ選べ

(処方1)
テルミサルタン錠 40㎎ 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 90日分

1 メチルドパ水和物
2 ドキサゾシンメシル酸塩
3 スピロノラクトン
4 エトレチナート
5 ヒドロクロロチアジド

相談された薬剤師は、代替薬を検索するという行動を起こしています。そもそも、なぜ「代替薬を探す」という行動を起こしているのでしょうか?その背景をまず埋めてみましょう。

それは、今服用している薬(若しくは、これから服用しようとしている薬)が妊娠中に(妊婦あるいは胎児に)なんらかの影響を及ぼす可能性があるから。  ということになりますよね。

そこで、2つの疑問が出てきます。
1:この薬は本当に妊婦は注意をしないといけないのか?
2:そもそも高血圧は治療しないといけないのか?妊娠中は中断しないのか?

疑問1

1 については、添付文書やインタビューフォーム(以下、IF)などの公式的文書で可否は判断することが出来ます。
しかし、一部は医薬品承認時に「妊婦または、妊娠の可能性のある人、授乳婦など」を対象にした臨床試験を行っておらずデータが(承認当時)不足しており、記載されていない場合もあります。その背景には「サリドマイド事件」が少なからず関与しているとも考えられます。
服用の可否に対する判断に迷った場合、例えば 薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳(南山堂)国立成育医療研究センターなどを参考に判断をすることが出来ます。

疑問2

2 については、リスクについて知っておく必要があります。
2003年頃に、「高血圧、蛋白尿、浮腫」を 3 徴とした妊娠中毒症を妊娠高血圧症候群(pregnency induced hypertention:PIH)という名称に変更されました。(1)

高血圧の状態は、PIH の発症リスクが 7.7倍へ上昇したり、早産リスク増(約2.7倍)、新生児死亡率増(4.2倍)になるなど母子ともにリスクが高まってしまう事が分かっています。(2)

更に、この PIH を持っていることで、胎児への影響(胎盤早期剥離)(オッズ比:2.23)や死産(オッズ比:3.60)などのリスクが高まることも数多くの調査の結果分かっています。(3)
そのため出来る事は、リスクを少しでも下げることです。妊娠が分かった人でも、高血圧の治療を中断せずに継続する必要があります。

この人が「代替案を探した」理由は・・・

つまり、①服薬を中断するのは様々なリスクが高まる ②オルメサルタンは妊婦への使用を適さない
と判断した上で、この相談された薬剤師は、「代替薬を探す」行動を起こしている可能性がありそうですよね。

前提条件が長くなってしまいました。
これで答えを探せばよいのですが、単に答えをだして終わりだと現場的には物足りません。

より現場的に

2022 年 11 月にこんな文書が公表されました。
カルシウム拮抗薬2剤(アムロジピンベシル酸塩及びニフェジピン)の「使用上の注意」の改訂について(4)

2021 年のガイドライン上では、妊婦に使用が出来る降圧薬は「メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピン、ヒドララジン」と記載があります。
またニフェジピンは、欧米諸国では妊娠全期間において使用が推奨されていますが、日本では妊娠 20 週以降のみの使用が認められている状況でした。しかしながら、日本においても妊娠全期間において厳格な血圧コントロールが求められてくるようになりました。
そこでワーキング・グループにより、積極的適応のない場合の高血圧に対して第一選択薬とされているカルシウム拮抗薬のうち医療現場での処方割合の高いアムロジピン及びニフェジピンについて、妊産婦等に係る禁忌の適正性が検討されました。

その結果、「禁忌」の項から削除し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する旨の注意喚起を記載することが適切であるとの報告書が取りまとめられました。

このように新しい情報(更新された情報)を取り入れて現場に反映する必要があります。 

来年以降の国家試験では、ニフェジピンもアムロジピンも変更提案の手札として揃えることが出来るということになります。
もちろん、医療現場での処方提案、代替薬提案の手札としても使用することも出来ます。(患者の状況によりけりですが)

この様に国家試験問題から、流行やトレンドを押さえてアップデートしていくと学生さんへのお話には使えるかもしれませんね。

参考

1:佐藤和雄 新しい妊娠中毒症の定義・分類試案の日本産科婦人科学会への提案経過 日妊娠中毒症会誌 2003:11:45-53
2:BMJ. 2014 Apr 15;348:g2301. PMID: 24735917
3:妊娠高血圧症候群の診療指針 2021
4:令和4年11月22日医薬安全対策課

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