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週刊レキデンス ~第1回~

はじめまして。 薬剤師をやりながらお薬や医療にまつわる歴史について学んでいる人です。

今までに調べてみた歴史などについて、不定期ではありますが発信していこうと思いまして不定期な連載をしてみます。歴史とエビデンスを混ぜて”レキデンス”  どうぞよろしくお願いいたします。

第1回は、麻薬の歴史について
麻薬の原点であるケシ(アヘン)は一体どこが原産地なの?
アヘンの成分が分かったのはいつくらいですか?

の2本です。 よろしくお願いします!!

麻薬の原点であるケシ(アヘン)は一体どこが原産地なの?
ケシってポピーとも言われていて色々な種類を見かけることがありますよね?そんなケシには大きく分けた2種類でみてみます。
①植えてもいいケシ、②植えてはダメなケシ 
①は、植物園や外の道端でよく見るヒナゲシ(Papaver rhoeas)、ナガミヒナゲシ(Papaver dubium)、モンツキヒナゲシ(Papaver commutatum)、アイスランドポピー(Papaver nudicaule)が該当します。②は、ケシ(ソムニフェルム種)(Papaver somniferum)、アツミゲシ(セティゲルム種)(Papaver setigerm)が該当します。(1)これらは、あへん法で取り締りが規定されています。いわば薬用ケシとも言えますでしょうか。そんな薬用ケシは、薬用植物園などで見ることが出来ますが、厳重な管理がなされているため容易に見学することは難しいです。そんな薬用ケシが一体どこで使われ始めたのでしょうか? 調べてみると、ケシの原産地については諸説があり一致していません。
ある説では「小アジアで採取されてインドやペルシャ、中国などに薬用として伝わった」、別の説では「インドや西アジア一帯」、「地中海沿岸地方」などと様々な考察がされています。

そんな各地で使われていたと思われるケシは、一体いつから使われていたのでしょうか?
ある考古学研究では、三万年前におけるネアンデルタール人のケシ採取形跡を残す化石が発掘されており、文献上ではケシは6千年前から利用されていた記録が残されている。アヘン使用の記述として残っているもので最も最古のものは、紀元前1552年エジプトのルクソールで発見されました。(2)
また、日本で使われていた記録を調べますと、ケシの到来が室町時代(1392-1573年)の津軽藩でした。徳川8代将軍吉宗の頃(1715-1745年)には日本で津軽藩が唯一生産していた様です。この影響もあり、明治10年にアヘンが禁止されるまでは「一粒金丹(いちりゅうきんたん)」に配合されていました。(3)

また、ギリシャ神話におけるアヘンの使い方については、こんな記述があります。古代ギリシャの長編叙事詩「オデュッセイア」の記述を引用し、TelemachusはスパルタにいるMenelausを訪れてたが、二人ともトロイ戦争の記憶とUlyssesの死により嘆き悲しんでいたので、Helenが二人にお酒を持ってきた。それは、ワインにある薬(アヘン)を溶かしたもので苦しみを忘れさせる力を持っていた。その薬はアヘンによる多幸感によるものだった。と説明しました。(4)

<アヘンの成分が分かったのはいつくらいですか?>
アヘンの有効成分の探索は17世紀頃から。1804年ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナー(1783年 - 1841年)がクラーマー(Franz Anton Cramer:1776 ‐ 1829年)の支援により薬局で働いていた21歳の時に、アヘンからモルヒネが初めて単離されました。(5)(6)
実は、世界でこれが初めて生薬から有効成分を単離を行った出来事でした。また、ゼルチュルナーは、この薬が「夢のように痛みを取り除いてくれる」ということから、ギリシャ神話に登場する夢の神、眠りの神モルペウス (Morpheus)にちなんでモルフィウム (morphium) と名づけました。(7)(8)ちなみに、パリの薬剤師デローネ(Jean-Francois Derosne:1774 - 1855年)によってナルコチン(ノスカピン)を発見・単離しています(9)。構造式については、1831年辺りからモルヒネの構造式を探ろうと、Liebigらが発表。最終的に、1925年のロバート・ロビンソン(Sir Robert Robinson:1886 - 1975)がモルヒネの構造を決定しました。彼は、これらの物質(=アルカロイド)の業績に対し1947年にノーベル化学賞受賞されています。(10)(11)その27年後、(その間第二次世界大戦ありました)1952年 Marshall Gates (1915~2003)がモルヒネの全合成を初めて完成させてRobinsonの仮説が証明されました。(12)

約150年もの時代を経て、モルヒネの発見~構造式解明まで進みました。解明が進んだ理由の1つとして、成分分析が進んだ、生薬から有効成分の単離が出来るようになったなど科学の進歩によるものがあるでしょう。調べを始めた当初はまさか、ギリシャ神話まで話が遡るとは思いませんでした。モルヒネの名前の由来がそこから来ていることにも驚きですが、インタビューフォームにも掲載されている事にも驚きました。これは是非知って頂いたらモルヒネがより身近になるのではないでしょうか?

1)東京都健康安全研究センター » 不正なケシの見分け方
2)<麻薬>のすべて 2011年 講談社現代新書 船山 信次 ISBN:978-4-06-288097-8
3)毒と薬の科学―毒から見た薬・薬から見た毒 船山信次 朝倉書店 (2007/06) ISBN-10: 4254102054
4)ケシ(Papaverspp.)栽培と阿片の歴史
ケシ(Papaver spp.)栽培と阿片の歴史 : 起源と伝播に関する一考察
信州大学農学部紀要. 35(1):59-64(1998)
5)Jurna I.et al.Schmerz. 2003 Aug;17(4):280-3. German.PMID:12923678
6)Goerig M,et al.Anasthesiol Intensivmed Notfallmed Schmerzther. 1991 Dec;26(8):492-8. German. PMID:1786314
7)モルペス細粒® インタビューフォーム
8)毒と薬の世界史―ソクラテス、錬金術、ドーピング 船山信次 中央公論新社 2008年/11/1 ISBN-10: 4121019741
9)Pharmacy in History Vol. 27, No. 2 (1985), pp. 61-74)
10)Brook K,et al.J Anesth Hist. 2017 Apr;3(2):50-55.PMID:28641826
11)アヘンの化学(アヘンの化学(The Chemistry of Opium)
12)オピオイドリガンドの設計ー天然物と生物活性の新局面 兼松顕 化学と生物 Vol.23 No,1

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