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週刊レキデンス ~第7回~ インクレチンってなんだろう?

ここ10年くらいは、DPP4-阻害薬やGLP-1作動薬等のインクレチン関連薬が次々に開発、承認、発売されています。そんなインクレチン関連薬は一体いつから注目されてきたのでしょうか? 今回はその疑問と最近のインクレチン関連薬について調べてみました。

インクレチンとは?

DPP4-阻害薬やGLP-1作動薬はインクレチン関連薬と呼ばれます。それではインクレチンとは何なのでしょうか? 
インクレチンとは、食事の後に腸から分泌されるホルモンで、膵臓のβ細胞を刺激しインスリン分泌を促すホルモンのことです。インクレチンには「GLP-1」と「GIP」の2つが知られています。そしてこの2つのホルモンに関連した医薬品をインクレチン関連薬と呼ばれています。(1)
そんなインクレチンですが、発見された当初は「インクレチン」という名前ではありませんでした。 時は遡って119年前、1902年にウィリアム・ベイリス (William Maddock Bayliss)(1860年5月2日-1924年8月27日) とアーネスト・ヘンリー・スターリング (Ernest Henry Starling)(1866年4月17日 - 1927年5月2日) は、動物実験で、腸管粘膜の抽出物を血中に注入した際に、膵液が分泌されることから、腸管粘膜の抽出物に膵液分泌を促進する何か物質が存在する可能性があると示し、それらを「セクレチン」と名付けました。(2)それから4年後の1906年には、腸管粘膜の抽出物には①尿糖を減らす ②体重を減らす 2つの事が報告されました。(3)それから26年後の1932年に、La Barre J はそれらの現象に対して、intestine secretion insulin(腸内分泌インスリン)に因んで、「インクレチン」と名付けました。(4)

インクレチンの作用が報告されてから、今我々が馴染んでいる名前を付けられるまで30年ちょっとしか経っていないんですね。人類の長い歴史からするとこれは早いのではないでしょうか? 2000年代以降はインターネットの発達なども含めて情報の更新が早く感じますので、30年は長く感じますが、それ以前の時代の事を考えてみれば早いのではないでしょうか? 

食事と点滴の違い

インクレチンという名前が付けられてから32年後の1964年、ELRICKとMCINTYREはインクレチンの効果についての報告を挙げました。それは、食事由来のブドウ糖と点滴(静脈投与)由来のブドウ糖を摂った時のインスリン分泌量が異なるのか調べた結果、前者の方がよりインスリン分泌が多い事が分かりました。この事から「食事を摂った事で、腸管から分泌されるインクレチンが膵臓に作用する」事でインスリン分泌を促す事が分かり、その現象を「インクレチン効果」と名付けました。(5)(6)

GLPって何ですか?

そこから更に19年後、遺伝子解析の技術が進歩することでインクレチンの中身が分かってきました。インスリンと反対の作用を示すグルカゴンというホルモンがあります。その前駆体であるプログルカゴンも含めて構造が解明されると、インクレチンの構造がグルカゴンに似ていることが判明します。 つまり、プログルカゴンは膵臓ではグルカゴンになりますが、腸管ではグルカゴンにならずにインクレチンになります。その中でもGLPになることが分かってきました。(7)

そう!ここまで読んでいただいた方にはお気づきかと思いますが、GLPとは「glucagon-like peptide」「グルカゴン様ペプチド」の略なのです。

ちなみに、インクレチンには、GLPともう一つGIPというものがあります。GIPとは、Glucose dependent Insulinotropic Polypeptide のことであり、GLPと同様にインスリン分泌を促す効果があります。元々は、腸管から分泌される42個のアミノ酸から構成されている胃酸分泌を抑制する効果のあるペプチドGIP(Gastric Inhibitory Polypeptide)と名付けられましたが(8)、その2年後にはグルコースと同時投与するとインスリン分泌をより促進することが判明し、GIPの名前を Glucose dependent Insulinotropic Polypeptide に改名した経緯があります。(9)


参考:

1:https://www.dm-town.com/medicine/incretin/incretin_001
サノフィ株式会社 患者向け糖尿病情報サイト
2:昭和医会誌第70巻 第1号[34-44,2010]糖尿病治療を変える新たな糖尿病薬インクレチン
3:Moore B.Biochem J. 1906;1(1):28-38. PMID:16742013
4:La Barre J. Sur les possibilités d'un traitement du diabète par l'incrétine.
Bull Acad Royal Med Belg. (1932) 12:620–34.
5:ELRICK H,et al. J Clin Endocrinol Metab. 1964 Oct;24:1076-82.PMID: 14228531.
6:MCINTYRE N,et al.Lancet. 1964 Jul 4;2(7349):20-1.PMID: 14149200.
7:Bell GI, et al.Nature. 1983 Apr 21;302(5910):716-8.PMID:6835407
8:Brown JC, et al. Can J Biochem. 1971 Aug;49(8):867-72. PMID:5120249
9:Dupre J,et al.J Clin Endocrinol Metab. 1973 Nov;37(5):826-8. PMID:4749457.

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