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アルコール消毒

 ファンタジー系の小説やアニメなんかだとよくあることなんだけれど、ある日突然、自分たちの環境がガラッと変わる。
 主人公になる人やメンバーたちは、そのガラッと変わった環境に戸惑いながらも、割と早い段階から順応していく。

 2020年、こんな小説やアニメでしか無いような自分たちの環境がガラッと変わる出来事が起きた。新型コロナウイルス感染症の拡大。

 パンデミックに分類される広範囲(世界的)流行。

 僕の住む日本(アジア)は、感染者数も重症者数、死者数も欧米諸国のそれと比較すると被害はとても小さく、「ただの風邪じゃん」という会話すら聞こえてくるような状況だった。
 死者数はインフルエンザと比較しても1/2くらいで、楽天的な比較論では確かに風邪なんだと思う。忘れてはならないのが感染力で、免疫力の低い人たちにとってはそれが命取りになる。つまり、新型コロナウイルスが原因で亡くなるという人が増えるのではなく、新型コロナウイルスに感染したことがきっかけとなり、別の病気(持病)で亡くなる人が増えるという事実だ。

「秋彦〜。帰ろうよ。」
「あと、ちょっとだけ。」

 学校の授業にプログラミングが導入されたことで、秋彦と夏樹の通う学校内のPC環境が一気に快適なものとなった。
 コロナ禍で登校日数が極端に少なくなった今、たまの登校日にPCを触りたくて仕方ない秋彦は下校時間ギリギリまでPCを触っていた。

「家でやればいいじゃん。」
「うちの家Windows PCなんだよ。学校だとMacがあるから、こっちでやる方が全然快適だし、楽しいんだよ。」

 英語?っていうかなんでこの行からめちゃめちゃスペース開けて文字書いてんの?たまに色ついてるし。

 授業で学ぶプログラミングはプログラミングという名称だけれど、始まったばかりの今は小学生だろうが、高校生だろうが、子供のおもちゃの延長のようなものばかりだったので、この分野に全く興味のない夏樹には、文字ばかりの画面でガチャガチャしている秋彦のやっていることが全く理解できなかった。そもそも、WindowsだMacだと言われても、Windows=普通のパソコン、Mac=おしゃれなパソコン程度のイメージしかない。

 っていうかさぁ。高校生だよ?17歳だよ?本当は好きだよ!が、愛してるよ!に変わる感じっていうの?今までは、一緒に帰るとか、一緒に帰るときに手をつなぐだけっていうか、手をつないでると他の男子から「ヒュー、ヒュー」とか言われて「昭和かよ!」って突っ込んだりして。
 それくらいでポッってしてたのが、こっそり公園のベンチでキスしたりとか、「お母さん、今日は真美の家に泊まってテスト勉強するからね。」って嘘ついてラブホとか泊まったりして、あとで「はいはい、お母さんは気づいてましたよ。でもお父さんは気づいてないから内緒でね。お父さんにバレると面倒だから。」って言われたり。

 別の男子と授業のこととかで話してたら、「今、何話してたんだよ!」って怒られてみたりとか。「なんでもないから。」って私もちょっと逆ギレして一日喧嘩して、寝る前にLINEで「ごめん、俺には夏樹だけだから。」みたいな。

 これ、これが青春だよ。なのに、これ?え?これ?基本国や学校から引きこもりを推奨されて、たまに登校日で学校来てみたら、WindowsがMacだからちょっと待ってと、かれこれ1時間待ち。何してんのかな?ってみたら、意味不明な作業だから、顔と顔をくっつけて画面見るとかもできないし。
 あ、今は密だからダメか。っていうか密ってなによ。

 感染するからって握手とかもなしだから、最近は手もつないでないし、っていうか、例えばよ、例えば、この後、秋彦と手をつないで帰ったとするでしょ?じゃ、私は「ただいま〜。」って家に入るわけ。そしたらお母さんが、「夏樹、手を洗ってうがいしなさい。」っていうんだよ。
 わかる?わかるよね?
 彼氏と手をつないで帰ったのに、家に帰ると手洗いとアルコール消毒することになるの。そう、うちにはおばあちゃんもいるから仕方ないんだけど。彼氏の温もりを薬用石鹸とアルコールで無かったことにするってこと。

 だれよ。ほんと。だれ?この新型コロナウイルスを広めたやつ。コウモリ?中国のコウモリが悪いわけ?イタリアで2019年の9月に採血した血液にもうコロナいたとか。ほんと、もう勘弁して。

「あのさ。もう終わってるんだよね。何ぶつぶつ言ってんの?」
「は?終わったら、終わったってちゃんと言ってよね。」
「怒ってんの?」
「そりゃ怒るわよ!」

「じゃ。」

 そういうと、秋彦はマスクをしたまま、マスクをした夏樹にキスをした。
「直接触れてないから、いいよね。」
「うん。」

「帰ろう。」
「うん。」

 夏樹に向かって手を伸ばした秋彦の手を夏樹はぎゅっと掴んだ。

「アルコール消毒しても、また手をつなげばいいじゃん。おばあちゃんの方が大事だし。」
「うん。」

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