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代替え品

 いったい、何に置き換わっていくのだろうか?

 何度も、何度も読み返し、大好きなページは、それこそ暗唱できるのではないだろうか?今は亡き(亡き?)アンジャッシュの渡部のように簡潔にスラスラとスピーディーにストーリーを説明できる小説たち。

 友達の細工でペアになるように仕組まれた肝試しのくじ引き。

 ドキドキ!しながら「香織さんいますか?」と彼女のお母さんに伝えた電話。「はい」という低い声に驚いて思わず切った電話。

 「次の休み時間、話せる?」と書き、2回、3回と小さく折り曲げて、右隣の席、その前の席、その右隣の席と彼氏を目指したメモ用紙という名の手紙。

 「昨日見た?」で始まる月9のストーリー。

 今日上京する彼女に「手紙書くよ」と、最後に伝えた時に握りしめていた新幹線構内へ入るためだけの入場券。

 「何?疑ってんの?浮気なんてするはず無いじゃん?」と浮気相手の隣で話し、くすくす笑われること。

 「久しぶり!今、何してんの?」と同窓会で近況を話し合う同級生たち。

 「そういえば、香織は結婚して、子供いるらしいよ?で、今日は子供を預けられないから来れないって。」と同級生から聞く、元カノの近況。


 もし可能なら次は続きの世界。2030年ごろがいいんだけど?そう伝えるとSiriは「わかりました。」と答えた。
 2020年ごろ、SiriはiPhoneという世界的に流行った端末の中の存在として認知されたAIらしい。音声で端末を操作できるという当時としては画期的なものだったらしいが、僕の祖先の住む日本ではあまり流行らなかったらしい。むかし、むかしのブログやTwitterなんかを調べてわかったのは、日本人は恥ずかしがり屋なので、人前で「ヘイ、Siri。音楽をかけて。」とは言えなかったらしい。
 そんなものかな?と疑問に思いながらふと「にとし」という人のブログを見ると、日本人に「ヘイ」は無理でしょうね。「ねぇ」とか「あの」とか、何なら「すみません」くらいじゃないと。「おい」にしちゃうと日本人的にはSiriじゃなくなっちゃうけどね。「おい、鬼太郎!」
 と、書いてあった、日本人は世界的に変わり者だったようだ。

 どちらにせよ、今の世の中、何人かって話はもうどうでもいい世界になっている。人種、肌の色、出身、話す言語、運動が得意か?勉強が得意か?、どんなタイプが好きか?LGBTがどうとか。。。

 この世界的に流行ったiPhoneに搭載されたSiriは世界平和の根幹を変え、そして世界平和を実現した。同時に環境破壊を止め、恒久的な理想郷を作り出した。実際には小さないざこざもあるようだが、高度に発達した文明がいざこざを早期発見、早期治療している。

 実現する上での最大の問題点さえクリアしてしまえば、あとは簡単に進んだらしい。最大の問題点。。。人の人としての尊厳を、等しく守ること。

 つまり、この僕のように尊厳を守られない側の人間は、毎日好きなように楽しむ代わりに物理的干渉の一切を諦めさせられることになる。要するに、僕という存在は、体から生まれるエネルギーを電気に変換し、世界の動力として利用される代わりに脳に刺された電極から好きな時代、季節、人種などを指定し、夢を見ているというわけだ。

 察しの良い読者はすぐ気づく(読者?)、世界平和や環境破壊を目指す人間にとって、最大の難敵は人間だということだ。

 生まれた時からこうである僕には声を出すというのはよく分からないが、声を出すようにSiriに話しかければ、Siriが希望通りセッティングしてくれる。イケメンを経験したいとか、ブサイクを経験したいとか。行った場所で「いじめ」を知り、体験したいという人もいるらしい。不自由な状況を打破するのが楽しい人もいるようだ。つまりは人と変わらない。いくつも人生を体験すると自分が誰かわからなくなる人もいるらしい。そうなると自動的にスリープモードに入れられ、電気のみを生産する塊にさせらる場合もあるようだ。

 2000年ごろの世界が割と心地良かった僕は、続きの世界として2030年ごろを希望した。徐々に変化する世界を楽しむのもいいが、少し飛び越えることで、明確な代替え品を感じたかったというのが本音だ。

 どうせ僕も代替え可能なモノなのだから。

いただいたサポートだけが僕のお小遣いです。ジリ貧(死語)