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【読書記録①】逮捕されるまで-空白の2年7カ月の記録-

※事件や犯行について何かを言いたいわけでも、擁護したいわけでもありません。一冊の書物として読んだ感想等を書いていきます。

みなさんお久しぶりです!にたまごです🥚
前回の投稿からかなり時間が経ってしまいました。。
何を書くかかなり悩んでいたのですが、読んだ本で感じたことをアウトプットしながら紹介することにしました!
今回の本は、、市橋達也無期懲役囚が書いた『逮捕されるまで-空白の2年7カ月の記録-』です!

🥚本との出会い
そもそも著者は2007年にイギリス人女性を殺害、その後国内で逃亡生活を送り、2009年に逮捕された市橋達也。そして無期懲役が決まる判決までの間に出版された手記がこの本です。
出版された2011年当時、僕は小学生でした。何気なく見ていたテレビでこの本の存在を知り興味を持ったのです。サバイバル系の本に関心があったので、その一環だったのではないかと思います。
そして、小学校の図書館司書にこの本を読みたい!と何度も頼んでいたのですが、入荷されることは遂にありませんでした。(そらそうか)

それから時が経ち、去年の今頃。用事のために母校に向かうまでの間にできた少しの暇な時間に、立ち寄った古本屋でこの本を見つけました。それまで存在を忘れていたものの、見つけた瞬間に当時の想いが再燃。人という存在や、マイノリティーへの関心が高まっていたこともあり、何か学びも得られるのではないかと思い、手に取りました。そしてコロナ自粛によってできた時間で読み始め、つい先ほど読み終わりました。

🥚感想
読み始めるとびっくり。とても囚人の手記とは思えない。内容は当然事件や逃走劇のことなのだが、小説のように思えてくる。
サイコや犯罪物の物語が好きだ。『スマホを落としただけなのに』『ミュージアム』『悪の教典』のような作風が好きになったことで気づいたことだが、それらの物語を読んでいるかのような気分でした。

内容は青森から沖縄まで、各地を移動しながら働いたり、お遍路を歩いたりしながらの逃走劇を時系列に沿って記したもの。驚いたのが、行動も思考もかなり鮮明に描かれていること。当時から残していたメモを参考にしたり、うろ覚えのことは正確なことを書いていないかもしれない。とはいえ、そうだとしても逃亡生活のリアルが伝わってくる内容だった。市橋の行動も興味深いものだったが、それ以上に内面の思考が非常に興味深いものでした。

以下ネタバレの恐れあり。

🥚興味深かった点①マスコミの報道に対する市橋の反応
作中で市橋がニュースや未解決事件の犯罪者を追う番組の報道に対して苦言を示すシーンがいくつかある。それに最初はビビる市橋であったが、その内容がめちゃくちゃであるために、次第に恐れなくなっていく。そして、唯一事実をしる自分にしかその内容のいい加減さを知らないと苦笑いする。
犯罪者目線からメディアのあり方を問われているような感じがしたのもおもしろかった。だが、それ以上にその内容故に、自然死するよりも、捕まってメディアが作り上げたレッテルを貼られることに恐れる市橋の内面が非常に興味深かった。女装して逃げている、ゲイ風俗で働いていたetc.事実無根の”異常者”の要素がメディアによって人々の印象に植え付けられていく。殺人を犯した犯罪者である以上、その文脈では異常者であるだろう。だが、その中にもアイデンティティ、プライドに基づくような、線引きを持っていたことが印象的だった。そしてそれと同時に、そのようなでっち上げを、ラベリングを平然と行うメディアを恐ろしくも思った。

🥚興味深かった点②底辺層の生活の描き方
市橋がホームレスとして過ごしている時期、働いている時期の話はいわゆる底辺層の生活の実態を描いたものでもあるように感じた。肉体労働の仕事の実情、理由があって住民票が必要な仕事に就けない人たちの苦労、ホームレスの助け合いetc.本人はそれを伝えようと書いたわけではないと思うが、リアルが伝わってきた。ブルーカースト層の働き方に関する研究を読んだ時と同じような感覚だった。

🥚興味深かった点③一般人が得ることのできない旅の手記のような経験
旅人の体験談は魅力的なものだ。見たことの無い景色、したことの無い経験は面白いし、刺激になる。だが、その後現地に行くことで追体験をすることも、一定のレベルでは可能であるだろう。
一方で、市橋の逃亡劇は常人が味合うことのできないものであった。移動には人目や防犯カメラを気にし、そのためには長距離であろうと歩き、睡眠は野宿、畑などで食べ物を勝手に採ることもしばしば。本当にその日その日を生きるために島の一角でサバイバルをしていたこともある。
その過ごし方を肯定するわけではないが、生きるために軽犯罪を量産しながらもなんとか逃げ、生き延びようとする旅のような経験は、物語として非常に面白いものになっていた。小説のような読後感があった一因かもしれない。

🥚興味深かった点④人の本質を考えさせられるような会話
非常に印象に残った場面がある。その文章を引用する。

昔、つき合っていた子に言われたことを思い出した。「みんなから好かれるにはどうしたらいいんだろう」って聞いたら、「そんなことはできないよ」って答えた。
それは事実なんだろうけど、それを聞いた時ひどく寂しい気がした。
そのことを思い出したら、ああそうだ、僕は誰からも好かれることはできなかったけれど、誰からも憎まれることはできたんだと思った。そう思ったらなぜかほっとして涙が出てきて止まらなかった。

この文章が心に刺さった。
僕は人には相性があるから、誰とでも親しくするのは無理だと思っている。それは人を諦めるわけでも、不仲を肯定するわけでもない。各人の個性を尊重したうえで、それがかみ合わない人はどうしても存在するだろうから、仕方がないと思っている。今まではそこまでしか考えていなかったが、この文章を読んで、全てを味方にすることができなくても全てを敵にすることはできてしまうということに気づかされた
だから何だ?と聞かれて答えられるほど、思考はまとまっていない。だけど、どうも人間関係や社会の本質をついているような気がしてならない。
この一節は本当に衝撃的だった。

🥚総じて
思うがままに感じたことを書いてきたが、本当に面白い本だった。犯罪者の手記を読むのは初めてのことだったけれど、その立場、状況だからこそ見える景色は、巡る思考は(犯罪者にならないと得られないという意味で)絶対に経験できないものだから新鮮だった。
加えて、文才が書物としての面白さを引き出している。

社会のことは「当たり前」から逸脱したものから考えられる。社会学の視点の1つだけど、犯罪という逸脱をした者による手記だからこそ、このような感想や衝撃を受けることになったのかな。
どこまで信じるか、どこまで肯定的に受け止めるかは価値観によるだろうけれど、一つの書物としてとても面白い本でした。

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