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御祈祷インシデントのレビュー:スタンダードながらひねりの利いた佳作

『御祈祷インシデント』はマーダーミステリーファンにオススメできるスタンダードな作りの佳作です。

マーダーミステリーを名乗る作品はいまや200本以上リリースされていて、差別化を図るために犯人探しとは別の軸でのギミックを採り入れた作品が増えてきています。
それ自体は新たな試みですし、楽しければ形式にこだわる必要もありませんから、ゲーム体験全体の質が上がるのであればどんどん取り入れて面白くすべきです。
ただ新機軸に執着するあまりに、犯人探しや推理がおろそかになっている作品があるのも事実です。

『御祈祷インシデント』は目新しさを狙ったギミックに囚われない、オーソドックスな作品でありつつ、犯人探しにマンネリを感じさせず、ロジカルかつ重層的に推理できるようになっています。

単にタイムラインを追っていく作品では多数の登場人物がいても、犯人になり得るのは2、3名にたやすく絞られてしまいます。またベテランのマーダーミステリープレイヤーにとっては、ややもすると作業になりがちです。
その点、本作はミステリーの基本に忠実ながらもうまくひねりが利いています。誰が犯人なのかという答えが、1つの謎を解くのではなく、一歩一歩核心へ迫っていくことで導出されるようになっていて、遊びごたえがあります。
後半にゲームが一気に加速していく緩急やエスカレーションもきちんと設計されていてダレることがなく、むしろクライマックスへ向かって盛り上がっていきます。

それでも傑作ではなく佳作どまりなのは、大きな物語の不在に拠るところが大きいです。
個々の登場人物は被害者に繋がっているものの、全員を結びつける1つの大きな物語は不在です。
縦の糸では結ばれているものの、横の糸が希薄で、俯瞰で作品を見たときに人間模様と思惑が織りなす大きなタペストリーは出来上がりません。
それがあれば感動的で情動的な作品として、佳作から傑作へと昇華できたことでしょう。

また全般としてみれば奇矯な人物はおらず、現代人の枠組みに収まっているものの、キャラクターの心理や考え方も一部に常識から離れた箇所があって、没入感を妨げています。
メタ視点でみれば、あるキャラクターにある行動を取らせたいという理由は理解はできますが(たとえば死体を発見したのにそのまま立ち去る人物など)、それは作者の都合に過ぎません。
プレイヤーが斟酌するものではないので、納得感を得られるように落とし込む必要があります。

傑作とまではならなかったのは惜しいところではありますが、現代日本が舞台で受け入れやすく、初心者からベテランまで楽しめる作品です。

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