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左利き連盟のレビュー:オンラインでプレイする意義を感じる一品

こんな人に特におすすめ:オンライン初プレイの方、世界観に浸かりたい方

世間の情勢もあってマーダーミステリーはオンラインプレイが盛んで、4月以降は有料の作品が週2本、無料の作品まで含めるとその倍以上のペースでリリースされています。
そんな中でマーダーミステリー専門店Rabbitholeのオンライン専用作品としてリリースされたのが「左利き連盟」です。

Rabbitholeの店舗で公演されている作品はオーソドックスなものが少なく、専門店ならではというチャレンジ精神、革新性が見られましたが、その精神は「左利き連盟」にもしっかりと息づいています。
店舗の作品ではそのスピリッツがときに空回りしてしまっているものもありましたが、「左利き連盟」ではそのこだわりが良い方向に働いています。
じっくり腰を据えて遊ぶ本格的な作品ではありませんが、初めてマーダーミステリーに触れる人でもすんなり楽しめるほど間口が広い上に、オンラインならではの体験に仕上がっています。

なにより「左利き連盟」が優れているのは、「オンラインでしか体験できないマーダーミステリーとはなにか」がきちんと考えられ、実現されている点です。
オフライン作品の中でオンラインへ移植してプレイできない作品はほとんどありません。しかしそれはオンライン作品をオフラインと同じような仕組みで作ればよいということを意味しているわけではありません。
没入感という点では、圧倒的にオフラインが勝っているのは言を俟たないでしょう。特に専門店ともなれば小物から店舗全体の雰囲気づくりにいたるまでトータル演出が考えられていて、オンラインで再現できたとしても体験の満足度は下がってしまいます。
ユドナリウムやココフォリアを使用すれば盤面は表現できますが、プレイヤーがモニターから目を離せばそこにあるのは日常であり、空間全体を使った没入感は出せません。

没入感で劣る以上、同じ内容であればプレイしたときの体験の満足度はオンラインが劣ってしまいます。
もちろんそれでも良い作品は生まれるでしょう。しかし実店舗があってマーダーミステリーのフロントランナーでもあるRabbitholeがオンラインでリリースする作品としては、作り手もプレイヤーもそれでは許しません。
だからこそオンラインマーダーミステリー作品へのRabbitholeの1つの回答が「左利き連盟」だったのでしょう。

「左利き連盟」は音声通話のみ、ブラウザを利用したツールやビデオ通話無しという制約を逆手にとり、音声のみというのがむしろ没入感を高める作品づくりがされています。
ハンドアウトもボリュームが決して多いわけではない中で、リアリティのある造形が築き上げられていて、キャラクターがしっかりと立ち上がってきます。デテールにこだわって下調べしたであろう労力が感じ取れ、シナリオだけでもプロらしいクオリティとセンスがにじみ出ています。
ハンドアウトを事前配布、音声通話が開始されたらキャラクターとして会話するという点も、没入感を高めるためのこだわりの一端が垣間見えます。

推理面では、きちんと論理的に考えれば犯人が導き出されるようになっています。
犯人に至る筋道はそこまで複雑ではないのですが、音声通話のみでプレイ時間もそれほど長くないことを考えると適正な難易度でしょう。6人の情報を口頭で正確に伝えるというだけでもかなり難しい作業です。

ただ音声通話のみ、カード類や密談無しということもあって、個人戦の要素はほとんどありません。
犯人を探しつつもうまく立ち回って自分の目標を達成したいというタイプのプレイヤーは物足りないでしょう。
張り切っていると肩透かしを食らってしまいます。

エスカレーションはしっかり構成されていて、「音声通話のみでプレイヤー同士が探り探りの中で状況を確認するフェーズ」、「通話にも慣れてきて推理で犯人へとたどり着くフェーズ」、「みんなで作り上げるエンディング」ときちんとプレイヤーの習熟度に寄り添った盛り上がりになっています。
ほかのオンライン作品と比べると没入感が配慮されているとはいえ、プレイヤーの気持ちと作品の盛り上がりが乖離していると興醒めで、そこはうまくスケジュールが調整されています。

ユドナリウムやココフォリアを使用せず、どのプレイヤーにとってもなじみ深いLINEやSkypeのみを使うというのは、間口を広くするという狙いもあるでしょう。
オンラインでマーダーミステリーをプレイしたことがある人はまだまだ数少なく、それらを使うとなるとどうしてもその使い方のインストからスタートせざるを得ません。
それだけで30分くらいは経ってしまいますし、そうしたツールの使い方を覚えてまでプレイするというモチベーションがある人しか遊べなくなってしまいます。
その点、LINEやSkypeであればすんなりとゲームを始めることができます。

「できれば店舗でプレイしたい作品だったけど、こんな状況だからオンライン公演でも仕方ないよね」とプレイヤーが感じるのではなく、「オンラインだとマーダーミステリーでこんな体験ができるんだ」という感動を味わってほしいという矜持が伝わってくる作品です。

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