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私が好きなマーダーミステリーベスト10

2022年末に開催されたトークショー「私が好きなマーダーミステリーベスト10」に登壇、ベスト10を発表しました。
トークショーは配信も終了していますが、各登壇者のベスト10は「マーダーミステリーマガジン Vol. 6」で掲載予定です。
そこでベスト10作品を選んだ私なりの基準を公開します。

ベスト10を選ぶにあたって、そもそも「マダミスとは何か」、「マダミスの面白さとは何か」を把握していないと何がベストなのかを決めることができません。
そこで具体的な作品に触れる前にこれらの定義づけから入りました。

「マダミスとは何か」という辞書的な説明や業界団体の定義は存在しておらず各人各様です。
だからこそ個人的なベスト10を発表するにあたって自分なりの定義づけを行いました。そしてそのために「ビジョン」と「ピラー」いう考え方を援用しています。
「ビジョン」とはそのジャンルや作品の要素を切り詰めていった際に最後まで残されるポイント、「一言でいえばこういうジャンル/作品だ」という主眼です。
「ピラー」はそのポイントを成立させる助けとなる3~4個程度の要素であり、まさにポイントを支える柱です(ピラーは柱という意味です)。

私の定義ではマダミスのビジョンは「犯人探し」です。「何らかの事件が発生し、その犯人を探す」というのはマダミスにとって外せない要素であり、それが主眼になっていないとマダミスとは言えません。ただ1つの要素として存在しているだけでなく、いちばん大事な要素として存在していることが重要です。
そして「犯人探し」をサポートするピラーとして、「没入感」、「推理」、「競合」があります。
「没入感」とはロールプレイや物語、世界観、演出など、作品世界へプレイヤーを引き込む要素です。
「推理」とは"論理的に"犯人へたどり着くことができる道筋が用意されていることであり、大量の情報を整理したり、それらの情報からひらめくといったことも含んでいます。
「競合」とはプレイヤー間の競合です。これは犯人とそれを探す人たちの対立だけではなく、プレイヤーキャラクターの個人目標を達成するためのプレイヤー同士の駆け引きを主に指しています。
これらは本noteのレビューでも繰り返しお伝えしてきたことです。

余談ですが、ビジョンとピラーという考え方はデジタルゲームの制作でも基本になっていて、『ポケットモンスター』や『ファイナルファンタジー』、『Apex Legends』、『コールオブデューティ』といった名だたるゲームでもベースになっています。
マダミスを制作する際も自分の作品のビジョンやピラーは何なのかを考えることは品質アップにつながるでしょう。

続いて「マダミスの面白さ」の定義です。
ビジョンとピラーはあくまでマダミスとはどういったゲームなのかという要素の分解であり、それがイコール面白さではありません。
とは言いつつピラーの3つが面白さの要素に含まれていますが、それ以外に「バランス」と「カタルシス」も構成物だと考えています。

バランスは「どのキャラクターを選んでも一定以上の満足度が得られるか」、「犯人の見つけやすさが適正か」を指しています。特に前者は作品として担保すべき最低限の品質保証です。
マダミスは一度しかプレイできず、事前にどういった役割があるかわからないまま、同じ額の参加費を支払ったプレイヤーがキャラクターを選択します。そしてその時点で満足度の上限が決まるからです。
どのプレイヤーキャラクターをプレイしても、そのプレイヤーにとって主役であると感じられるべきです。
これは推理小説とは大きく異なる点でしょう。
推理小説で全編にわたってスポットライトが当たる容疑者はせいぜい2~3名程度で、それ以外の登場人物は特定のシーンでだけ脚光を浴びる端役です。端役のキャラクターたちの背景や行動原理、アリバイが作中で詳しく語られることはありませんし、その必要もありません。極端な話、文中に登場するシーン以外ではずっと自室にこもっていてもかまいません。
しかしマダミスではそういう訳にはいきません。プレイヤーが演じるすべての登場人物の背景、行動原理、いつ、何を、なぜ行っていたのかを描写する必要がありますし、ずっと部屋にこもりっぱなしの人物ではプレイヤーキャラクターになり得ません。

もちろん登場人物によってある程度の満足度の幅は許容されますが、最低値は厳然として存在します。ある人は上限が100点で別の人は80点程度であれば認められるでしょうが、ある人は50点というのは許されません。
プレイヤーの満足度の平均点が全体で90点だから良しというわけにはいきません。ほかのプレイヤーの面白さのために自分から望んだわけでもないのに誰かが犠牲になる、仲間外れになるというのは商業的に許容できません。

カタルシスは端的にいえば「プレイ後にやりきった」と感じられるかです。
プレイヤーが驚くようなどんでん返しが何度も起こる展開、プレイヤー同士が一体感を感じるイベントなどです。
複数の要素が含まれているのは意図的です。「カタルシスの評価が高いということは、犯人が捕まった後にもう一波乱あるんだろう」、「協力して何かするんだろう」といった邪推でネタばらしになるのを避けるためです。
実際、カタルシスは最後の大波乱に限りません。ハリウッド式のシナリオメソッドに三幕構成がありますが、ゲームの展開が三幕構成に沿っていればカタルシスを得やすくなっています。

個別の作品の好きな理由を語ると長くなってしまいますが、要点をまとめていますので、それを掲載して本稿を終わりとします。

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