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オンラインマーダーミステリーの短評(第3回)

プレイしたすべての作品ではありませんが、いくつかの有料オンラインマーダーミステリー作品の短評です。
オンライン作品では新たな試みを採り入れた作品がどんどん生まれているというのが全体的な印象です。

あらしのびょういん

コンセプトは非常に良いのですが、粗削りすぎてそれが楽しめません。もっと練り込めば良作になりえたでしょう。
レイアウトを整えるのはスキルも必要なので同人作品にそこまでクオリティは求めませんが、コンポーネントが雑すぎるあたりにクオリティの低さが象徴されています。
リングノートにシャーペンで手書きした地図をスマホで撮影(しかも撮影者の影が映り込んでいる)というのは衝撃的なクオリティです。

暗殺 赤ラベル狂

ぶっ飛んだ世界観でひたすらそれを楽しむ作品かと思いきや、犯人探しの推理に関してもかなり丁寧に作られていて、良い意味で裏切られる作品です。
しかもマーダーミステリーが構造的に抱えている問題に対して、ある解決策も提示されています。
イラストやゲーム概要で敬遠している方がいたら損をしています。

アンドロイドは夢を見る

コンセプトは面白いのですが、気づきはもっと与えるべきでしょう。ストーリー自体はよくできています。
脱出ゲーム(特にルーム型)ではプレイヤーが知るべき情報はその場にすべて提示されていますが、文字ベースのマーダーミステリーでは当たり前のことでもテキストで描写されていなければ知りようがありません。

作者の情報整理が下手でルール説明がバラバラなため、ゲームを始めるまでにGMがゲーム全体を把握するのに非常に時間がかかります。

産まれる心の執着

不思議の国のアリス、夢の世界と現実世界の二重構造というモチーフはキャッチーです。
ただ要素が多すぎて収まりきれていないのと作者が意図するコンセプトが見えづらく、もう少し練り直す必要があります。

また致命的な誤植や表記もれなどリリース時点でのクオリティが低すぎて、正式版として出せるものではありません。
時間が経てば修正されるのかもしれませんが、一度しか遊べないというマーダーミステリーの性質上、最低限の品質を担保した上でリリースしないと購入者に失礼です。

円蓋の向日葵

「血濡れの紫陽花」と同じ作者で、同じゲームシステムでうまくまとめられています。
犯人を探すための導線、そして個人目標、ゲームバランスが程よくおススメできる作品です。
ただあるキャラクターは立ち回りがかなり難しく、ベテランプレイヤーでないとプレイしづらいので、マーダーミステリーに慣れた方向けです。

学院魔女裁判

ビジュアルは非常に素晴らしいのですが、ゲームバランスが悪くてワンサイドゲームになってしまいます。
犯人を見つけるための手がかりは提示する必要がある一方で、犯人にも逃げ道は用意しなければなりませんが、この作品においては逃げ道が一切なく、プレイ時間が短いにもかかわらず議論を打ち切って終わらせてしまえるほどでした。

現実からの救済

非常に面白い試みを取り入れた作品で、その試み自体はマーダーミステリーともとても親和性が高くて成功しています。
ただ肝心のマーダーミステリーとしての作りが雑で、特に犯人探しの推理部分の出来がかなり低いです。
マーダーミステリーとしての質が担保されておらず、せっかくのアイデアによる驚きが相殺されていて、もったいないというのが正直なところです。
もっと丁寧に作れば傑作として残ったのではないでしょうか。

知らぬが花

ほかのマーダーミステリー作品群の気になる要素に関して作者なりの解決案を提示していて、それがきちんとゲームの面白さ、体験して欲しかったプレイとして実現されています。
ただし作品はベータ版くらいの完成度で、ユドナリウムの盤面、ルールの整備面などはもっと手を入れることで洗練できます。現状でもゲームとしては機能していますが、GMに依存する力技です。

千里眼教殺人事件

犯人探し、個人目標のバランスがほど良く取れている佳作ではあるのですが、独自システムが誤解を招いてしまう恐れを多分に含んでいます。
既存のマーダーミステリーで不自然な要素を解消しようという試みは理解できるのですが、既存システムと違っていることがかえってベテランプレイヤーの混乱を生んでいます。

独自性を出すためにオリジナルシステムを導入したくなるのはわかりますが、同じ作品は一度しかプレイできません。システムを把握したころにはゲームが終わっているとすると、ゲーム体験を阻害する要素になってしまいます。

第五列はベールを剥いだ

インテリジェンスを感じる作品です。
犯人探しの推理と個人目標のバランスがうまく取られていて、個人目標では犯人であっても協力しうるようになっています。
犯人が見つかるか、逃げ切るかにおいては対立構造でゼロサムにならざるを得ませんが、ゲームが楽しめたかどうかはゼロサムではなく協力関係にあります。
「みんながゲームを楽しむ」というファンダメンタルな部分をプレイヤー任せにするのではなく、システムがサポートしています。

強がりプリンセスは夢を見る

「犯人探し」という意味ではマーダーミステリーですが、ゲームの主になっているのは別の要素です。イメージイラスト通りの作品なので、推理や論理重視ではなくカジュアルに遊ぶ作品です。
主人公であるプリンセスは忙しい時と暇な時の落差が激しく、引っ張りだこになる時もあれば、主人公であるにも関わらず放置される時間も発生します。

GMの手間が異常にかかる作品で、その労力が報われるほどのクオリティではありません。
「アンドロイドは夢を見る」と同じ作者で説明が下手なため、そもそもゲーム全体を把握するのに時間がかかります。さらにゲーム中もGMは非常に忙しく、文字通りで秒単位での行動が求められます。
GMに覚悟がないとおススメできません。

人間卒業

死んだはずの被害者が生き返るというオープニングだけで引き込まれます。
犯人探しや個人目標についてもバランスが取れていてストーリーも面白く、初心者にもベテランにもおすすめできる作品です。

百物語殺人事件

マーダーミステリーとしては比較的王道な作り、かつDiscordのみでプレイできてユドナリウムの説明も必要ないため、初心者にもおすすめできます。
犯人をどうすれば見つけ出せるのか、あるいはどうすれば見つからないのか、基本的なプレイに忠実かつちょっとした飛躍も必要でうまくまとめられています。
百物語がゲーム中に登場するというのも面白い試みで、ゲームの個性を彩るフレーバーす。ホラー要素はほぼないのでホラーが苦手という人でも遊べます。

美徳の会

ゲームのコンセプト、犯人探しや個人目標といったマーダーミステリーの要素のどちらも優れていて、おススメできる作品です。犯人探しのバランスをとるのは難しいのですが、システム面でうまく調整されています。
独自システムがやや複雑で理解に時間はかかりますが許容範囲ではあります。

メモリーズエンド

短くてシンプルな作品ながら、うまくまとめられている作品です。
同じ作者の1作目(勇者は殺されてしまった!)はおススメできませんでしたが、本作は見違えるほど良い作品です。
ただゲームの最も軸になる部分は、「犯人探し」のマーダーミステリーというよりボードゲーム的です。

勇者が死ぬまでは。

意外性を楽しむためには緊張だけでなく緩和が必要で、緩和がないとゲーム体験に不満が募ります。その絶妙なバランスがとられています。
似たような作品はほかにもあるのですが、そこが本作との大きな違いです。
ある程度マーダーミステリーをプレイした人向けです。

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ユドナリウムなし、4人プレイという形式面は手軽に遊べる作品ですが、中身はしっかりしたマーダーミステリーです。経験者向けで、短い時間の中で情報がかなり公開されます。
情報のトリアージと整理ができる程度にはマーダーミステリーをプレイしていないと、混乱したまま終わってしまうかもしれません。

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