マーダーミステリー:オンラインとオフラインの違い
このところオフライン作品のオンライン化、あるいはオンライン作品のオフライン化が増えています。
それ自体はプレイできる環境に幅ができるので、プレイヤーとして歓迎すべきことです。しかしオンラインとオフラインでは同じマーダーミステリーであっても体験に差が生じます。制作者やGMがそのことに無自覚だと、せっかくの作品のポテンシャルをすべて堪能できずに終わってしまいます。
最も大きな差は「没入感」と「情報整理」なので、本稿ではその点に注目して違いを挙げていきます。
オフラインが持つ没入感のパワー
オフラインの方が圧倒的に没入感が高いというのは容易に想像できるでしょう。
たとえ会場が友人宅や殺風景な貸会議室だったとしても、ゲーム中は目に入るすべての場所がマーダーミステリーのプレイ空間になります。ハンドアウトやカード、トークンも手に触れられる実物があるだけでシズル感が生まれます。
まして空間演出がされている専門店や作品に合わせたレンタルスペースで衣装を着込んでプレイすれば、その場にいるだけでゲームが始まる前からハレの場になります。
ゲームをプレイしている間は日常を離れ、マーダーミステリーという非日常な体験に完全に浸ることができます。
一方でオンラインではゲームのプレイ空間はモニターの中だけにとどまります。モニターから目線を外せばそこにはいつもの生活空間が広がっています。
そして日常が同居しているだけに、プレイヤーに強く意識してもらわないとプレイの間ずっとマーダーミステリー体験に耽溺してもらうことはできません。
ちょっとした空き時間にスマホをいじったり、宅配便が届くことだってあるでしょう。そこまでしないにせよ、日常の場が視界に入る状態で非日常な感覚を保ち続けるのは困難です。
またオンラインでは機材トラブルも付きものです。Discordで音が聞こえない、ユドナリウムやココフォリアにうまくつながらないなど、1プレイに1度はトラブルが出るものです。
トラブルがあるたびに、本人も待っているプレイヤーも日常に引き戻されます。故意ではない不可抗力ではあるものの、最高潮の瞬間が台無しになる危険性がつきまとっています。
オフラインは人数やスケジュール調整した上で会場まで行く必要があってお金もかかるのに対し、オンラインは人数や時間の都合をつけやすくリーズナブルにプレイできます。いわば高級レストランとファミレスやファーストフードの違いのようなものです。
時間やお金の面ではオンラインの方が手軽にプレイできるメリットですが、没入感の観点ではオンラインとオフラインのメリット、デメリットが逆転します。
時間とお金をかけているからこそ、プレイヤーの楽しもうというモチベーションがより高くなります。
これらはオンライン作品をオフライン化する際は恩恵になりますが、オフライン作品をオンライン化するときに注意すべき点です。
オフライン作品というだけで、ハレの場としての没入感のゲタを履いていることは自覚すべきです。あけすけに言えば、多少面白くない作品でもオフラインというマジックで楽しく感じられるということです。
物語の導入であるオープニングシーンを中心に、没入感を高める演出も気をつける必要があります。没入感を補うためにオンラインならではの演出を追加することも考えるべきでしょう。
情報が整理しやすいオンライン
没入感ではオフラインに劣るオンラインですが、推理につながる情報の整理という観点ではオンラインが圧倒的に勝っています。
まずオンラインでは全員が同時に盤面全体を見渡せます。どの情報カードに何が書かれているか、誰がどのカードを取得して何を公開しているのか(あるいは公開していないのか)が一望できます。
場に出ている情報を複数人が同時に閲覧できるので、個々人が同時進行で推理に思考を巡らせることができます。
またキャラクターシートやプレイ中のメモは、他人の目を気にすることなくじっくり読み込んだり、書き込めます。特に利用が制限されていないなら、Excelなどのアプリを駆使することで時間軸や人間関係などの整理をより効率的に行うことだってできます。
相当に複雑な推理導線や人間関係、秘密があったり、カード枚数が多くなっても、ある程度の経験を積んだプレイヤーであれば真相にたどり着き得るということです。
カードの公開、非公開の問題をさておくなら、複数のカードを組み合わせることで判明する事実がいくつもあったり、犯人探し以外に全員が取り組むべきチャレンジがあっても、お手上げではなくプレイしごたえがある作品に収められます。
オフラインでは情報の整理はそこまで順調に捗りません。
もちろんオフラインであればオンラインと違って誰が発言しているのか迷うことはありませんし、ノンバーバルなコミュニケーションから情報を得ることはできますが、オンラインの情報整理には到底及びません。
オフラインのたいていの作品では各プレイヤーが取得した情報は手元で公開されるため、情報を一覧することができません。場に出す場合であっても物理的な距離の遠近が障害になります。単純に自席から遠くてカードの文字が読めないということです。
カードをじっくり眺めようとすると手に取ることになりますが、1枚の同じカードを複数人が同時に見るのは困難です(場に置かれていたとしても、同時に閲覧できるのは2~3人でしょう)。
オンラインであれば公開されたカードを見逃すことはまずありませんが、オフラインではカードに意識を向けていないと公開されていたとしても、内容をよく読まなかった、あるいは公開されていたことにすら気づかなかったといった事態が容易に起こり得ます。
プレイヤーは犯人探し以外にも何らかの目的を抱えている場合がほとんどで、個人目標に注力している間は全体の動向の把握はおろそかになります。
キャラクターシートの閲覧やメモにしても、ほかのプレイヤーの目を気にしながらになりますし、スマホやノートPCを開いたままプレイというわけにもいかないでしょうからアプリ類も使えません。
オンライン作品をオフライン化する際はよくよく気をつける必要があります。
オンライン版の時点で歯ごたえのある推理を体験できる作品であれば、そのままオフライン化すると難しすぎて楽しめない可能性が高いです(もちろんシステム次第ではありますが、一般論としてです)。
せっかく犯人導線や推理の論理連関をしっかり用意していても、解説を聞いた際に「そこまで考えるのは無理」というネガティブな印象を抱かせて終わってしまいかねません。
オンラインとオフラインは似て非なるもの
同じマーダーミステリー作品であってもオンラインとオフラインでユーザー体験が違うということです。
そのまま移植するだけでは作者やGMが本来意図していた体験を提供できないことを踏まえ、オフライン作品のオンライン化、あるいはその逆の場合にアレンジや最適化が必要です。
何も考慮せずにそのまま移植するようでは怠慢の誹りは免れません。そもそも1度しかプレイできない体験の満足度を最大化させられないのはもったいないことです。
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