「コンビニ兄弟」に心を奪われる~読書感想文~
本を一気読みした。
読書感想文を書きたい、と猛烈に思った。
今の私が、この本のどこに魅了されたのか、ちゃんと言語化したい。
図々しいながら、この本がもっといろんな人の手に取られ、「私はここが好き」とか「今の私はこう感じる」と、色とりどりの感想が飛び交う世界になってほしい。
そんな勢いのままに、おそらく高校生のときぶりに読書感想文を書いてみました。
簡単な紹介~とあるコンビニを中心に繰り広げられる人間物語~
コンビニと聞くと、どこか雑多な印象を持っていた。
365日24時間、ありとあらゆる世代・所属の人たちが雑多に交わる場所。
全国各地どこへ行ってもある安心感は、「どこへ行っても同じ」という普遍性(悪く言えば面白味に欠けること)とも言えよう。
この本の舞台であるコンビニチェーン「テンダネス」の門司港こがね村店は、そんなコンビニの普遍性を覆した、「ここじゃなくてはいけない」コンビニである。
一番の特徴は、その店長である志波三彦だ。とんでもない色気を兼ね備えており、女性客だけでなく男性客でさえも一度の接客で虜にしてしまう能力をもつ。
おっと、ここで読むのをやめようと思ったそこのあなた、もう少し待ってください。私も決してイケメンは得意ではありませんし、キラキラだけの青春恋愛小説は少し苦手です。
色気プンプン話が大好きな人は、こんな感想文はさっさと切り上げて本編を読んでください。
話を戻すと、この本はテンダネス門司港こがね村店のフェロモン店長とアルバイトや常連客が日々、いろいろなお客さんを接客し、ときにはその人生に触れたりするというお話である。
私はこの本を2022年7月28日(木)に1作目、2作目と通して読み、ときには「イヒヒ」と気持ちの悪い声をあげながら、ときには「うわあ゛あ゛」と騒ぎながら、ときには目頭を熱くした。
ここから先は、私がこの本に異様な愛をもってしまった訳を語りながら、この本の特徴を紹介しようと思う。
すべての登場人物が人間らしく生きている
この本の好きなところは、これに尽きる。いや、決してそんなことはないし、現にあとで他の好きなところも挙げるのだけれど、とにかく登場人物が人間すぎる。
どの登場人物も素晴らしいキャラクターをもっていて、いろいろな経験をしてきた過去があって、それぞれの家庭環境があって、読み進めていくうちに少しずつ登場人物の輪郭が明らかになってくる。
そして、それだけではなく、登場人物は皆、この物語の中で成長しているのだ。小さかったあの子がこんなに大きく…という話ではない。1,2作目を通しても、時の経過は1年やそこらである。彼等は、テンダネス 門司港こがね村店で何かを知り、気付き、学んでいく。
その学びは人それぞれで、ある人は他人の痛みを知り、またある人は自分の本当の想いに気付く。フェロモン店長が説法をするわけでもない。何か教えが書かれているわけでもない。極々普通のコンビニの店内で、幾人もの心を変えるような物語が紡がれていく。
登場人物の人生が交差する、安定した場所がある
この場所が、言わずもがなテンダネス 門司港こがね村店である。
冒頭でコンビニを「365日24時間、ありとあらゆる世代・所属の人たちが雑多に交わる場所」と表現したが、この特徴をこれでもかと言わんばかりに活かした場所になっている。
通常、いろんな人が働き、客として来店すると分かっていながら、コンビニにいる人々と関わりを持つことは滅多にない。この人はどうしてコンビニで働いているのだろう、この客はどうしていつも決まった曜日の決まった時間に同じコンビニを訪れるのだろう、と想像の余地を大幅に残したまま、自分自身がその店の生活圏から外れていく。
前述した、登場人物が交わっている場所は紛れもなくコンビニで、初めはその場にいる全員が赤の他人である。だが、そのコンビニにはいろんな形のファンがいて、ふとしたときに足を伸ばしてまで向かいたくなる「拠り所」になっている。
それぞれが多様な人生を送っていて、その人生のなかのふとしたタイミングでテンダネス 門司港こがね村店に立ち寄る。そしてまた、それぞれの日常や波乱の人生を生きて、あるタイミングで何かに惹かれるようにテンダネス 門司港こがね村店を再訪する。
このコンビニは、地域のコミュニティスペースのような役割と、誰もがいつでも飛び込むことのできる駆け込み寺のような役割と、こっそりマスターに話を聴いてもらいに訪れるスナックやバーのような役割を持ち合わせているのかもしれない。
また、かえりたい本に出会えた
初めてこの本を読んだ私は、24歳と1か月。
今日の私は、誰かが自分の人生を見つめ直すタイミングとか、家族や友達の愛に気が付くときとか、大事な決意を下す瞬間に心を揺さぶられた。
5年前の私がこの本を読んで何を思うのかは分からないけれど、5年後の私がまたこの本を手に取って読むことはできる。
そのときに、登場人物の誰に自分を重ね、何を感じるのか。その感情は今日の私と同じものなのか、それとも違うものか。
「365日24時間、ありとあらゆる世代・所属の人たちが雑多に交わる場所」で繰り広げられる物語だからこそ、どんな自分にだって入り込む余白があって、得られるものがあるのかもしれない。
また、読み返す日までの期間にも、テンダネス 門司港こがね村店ではいろいろな物語が生まれているに違いない。
ああ、楽しみだなぁ。
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