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【表現評論】メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム コアレビューその14 麻尋ルート リバースカット1【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

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⚫︎リバースカットと小説のセオリー

ようやくリバースカット編。リバースカットは、#5から導入されたヒロイン視点の物語です。その後の作品でも大幅に採用されたり、一部採用されたりしている視点ですが、#5ほど意味のある視点切り替えは他にはなかったと思います。#5は普段から麻尋の行動に不可解な点が多いんですが、まあちゃんと理由はあるよね、ってのが開示されます。作中で残った謎もきちんと開示されます。あと主人公視点では全然目立たなかった信が、裏で動きまくってるのもわかります。

視点切り替えって小説の作法としては御法度で、視点移動と時間移動はやらないというのがセオリーです。ただノベルゲーなんでね。小説の作法は関係ないわけですが、小説で御法度ということは、似たような形態であるノベルゲーにも少なからず影響があると考えるのが自然でしょう。ただ考えて詰めていくと、実際のところ、小説とノベルゲーは被るところもあれば、あまり被らないところもある、ということがわかります。当たり前だけど。

小説で視点移動が禁止なのは、第一に、誰が何をどうやってるのかわかりにくくなるからです。漫画なら別に関係ないわけですけども、小説というのはただでさえ誰が喋っているのか、誰の考えなのかわかりにくいところがあるので、視点を主人公に固定して動かさない方が話がわかりやすくなります。ただこれに関してはノベルゲーには当てはまらないですね。

ノベルゲーにおける視点移動のリスクは、他人の心情が読めてしまうというところに尽きると思います。これは小説でも同じ。恋愛ゲームでヒロインの心情を開示するってのは結構危ない橋です。この手のゲームは他人の気持ちが確定しないから面白いってのは確実にあって、ネタが割れたら(気持ちが確定したら)つまんねえということにもなりかねません。だからリアルタイムの視点切り替えは危険なわけですが、#5のリバースカットは同時並行ではなくて、一旦物語を終わらせてから時系列を戻って視点を切り替えているので、そういうリスクは排除されています。ちなみにリアルタイムでやってしまっていたのが星天で、やっぱり微妙な感じでした。T-waveにもリバースカットはありますが、それはT-waveをやる時に語ります。

時間移動の禁止に関しては、例えば過去編なんかをやっても、まあ結末がわかってしまうので、緊張感に欠けるというのが挙げられます。例えば主人公が現在生きてるなら、過去編でどんな目に遭っても生きてるというお話です。ただこれも小説に関する話であって、漫画なんかは誰も彼も悲しき過去ばっかりやってますからね。あとは単に時間が移動するとわかりづらいという話もあります。小説は読むのに負荷が高い媒体ですから、そういう配慮が必要ってことなんでしょう。やはり文字情報だけの小説の作法と、ノベルゲーの作法は、似て非なるところがあります。

あと作法というのは一旦確立してしまえば、元々の由来がどうのこうのではなく、守ること自体が目的になったりしますからね。実際に意味があるのか分からなくても、守るのが重要なことは、世の中よくあります。ノベルゲーは歴史が浅い&作品点数も小説よりは少ないので、作法が確立されていないのかもしれない。

⚫︎麻尋と雄介の出会い

海岸で出会い頭に映画に主演しないか、と声をかけてくる男。完全に不審者です。香月も最初声かけられた時にナンパかと思ったと言っていましたが、麻尋も同じ。君の姿を見て、一気にイメージが湧いたとか、ナンパの文句以外にない。何回も会う内に、映画を一緒に撮ることが二人の間の約束になっていったようです。人たらしの男。

⚫︎麻尋の年齢

麻尋の自室。りかりんのファン

麻尋にとって、信はルサックのバイトの先輩です。で、真が麻尋のひとつ上ということなので、麻尋は春人と同い年で間違いなさそう。当たり前にそう思ってたけど、文章読んでる限りでは、いまだに年齢不詳だったんじゃないか。高校卒業してることだけは確定してたわけですが。

⚫︎信からの電話

隣に河合春人という男が引っ越してきたと信から電話が入ります。リバースカットの開始地点はそこからってことですね。麻尋は事故があってから、雄介の仲間を必死に探していたことがわかります。知っていることは春人たちの名前と、千羽谷大学の映画研究サークルに所属していることだけだったとか。見つかるまで1年もかかったのか。そんなに巨大な大学なんですかね。

ルサックで信と合流。信は日暮荘に住んでいるので、ある程度事情を教えておいて、何かあったら知らせるように頼んでおいたらしい。信が初っ端から春人にCUM研の場所を聞いてきたのは、麻尋に場所を教えるためだったことがわかります。遊びに行くとか言っていたのは口実。実際一回も来てないし。こうやって春人視点でよく分からなかった行動の理由づけがなされていくのがリバースカットの魅力です。

しかし信が女の名前を呼び捨てで呼ぶのは珍しいですね。唯笑のようなちゃんづけグループと、静流のようなさん付けグループがいて、あとは適当なあだ名とかで呼ぶことが多いけど、麻尋意外に呼び捨てはいないんじゃないだろうか。

⚫︎部室に突撃

千羽谷大学に入ったところで、大学生じゃないことがここで明かされます。今更だけど。まあ初回はメチャクチャに言われて帰るわけですが、喧嘩腰だったにも関わらず内心凹みまくっていることが描かれています。しかも指差し確認したのに台本は忘れてきているという。

⚫︎雄介が海岸をほっつき歩いている理由

雄介がしょっちゅう海岸を歩いているのは、ほっき貝を探しているからであることがわかります。なくなったあすかのペンダントをもう一回作ろうとしているらしい。もう2年探しているとか。想いは願い続けていれば叶う、という雄介が残したワードがここで出てくる。願いとは具体的な行動であることも言っています。

⚫︎墓参り

毎月雄介の墓参りをしていることがわかります。命の恩人だからね。CUM研の人間でも毎月は行ってないのでは。

⚫︎あすかと麻尋

部室に向かう前に遭遇。私の居場所に入ってこないでください、と言われます。嫌われるのは当然だが、それでも雄介との約束は守らなければならないと麻尋は考えているようです。春人といい、麻尋といい、なぜこいつらは親友の妹よりも親友との約束を優先するのか。オズ先輩、一言言ってやってくださいよ。なんでこいつら、こんなに映画狂なんだよ。

⚫︎麻尋の内心

春人視点では生意気で身勝手な女に見えていたわけですが、麻尋視点ではものすごく傷ついていたことがわかります。ただ、なぜ映画がマストになってるのかが分からない。そこを捨てれば麻尋もCUM研もみんな平和なのでは。もはやサンクコストになってないか。捨てちゃってよ。そんな呪いの映画。という気がしなくもない。

⚫︎信と麻尋

作中ではなかなかいいコンビになっています。智也と信のような関係。春人が麻尋に開示していない情報を麻尋が知っていることが多々あったわけですが、全て信経由で流れていたというオチです。

⚫︎雄介の香月評

麻尋が聞いた雄介の香月評。

「香月は、オレたちの映画作りには欠かせないんだ」
「普通、誰だって監督をやりたがるものだけど、あいつは裏方が好きでね」
「自分の得意分野をきちんと分かってる。そして、そこで勝負しようとしてる。大したヤツだよ」
「オレや春人が暴走しそうになると、ちゃんと諌めてくれるし」
「ただ、ひとりで無理をしすぎるのが、欠点と言えば欠点かな」

メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム

ひとりでなんでもやろうとして、アホみたいな作戦で自爆するというのが香月ルートのお話でした。逆に監督をやらせたらどうなるのか気になる。雄介と春人がセットになった時どういう効果があったのだろうか。その辺はあまり語られないですね。修司評もあるんだろうか。

⚫︎香月と麻尋

ルサックに現れた香月と海辺で会話。私はずっと一緒にいたのに、嫌われるのが怖くて何もしてやれなかった。仙堂さんが春人を救ってやってくれ、というのが香月の話でした。香月が春人に対する気持ちに整理をつけたと思われるシーンです。ある意味で敗北宣言。

ただこうなってしまったのは、ひとえに環境の差です。麻尋には雄介の映画を何よりも優先するという、常人には理解不能な動機があるから春人に踏み込んでいけるわけです。香月やあすかと麻尋の違いはそこにある。

以前にも言ったように、#5は幼馴染や旧友よりも、ぽっと出の女が勝利する作品ですが、なぜそうなったのかと言えば、この動機の差ですよ。香月にはそこまで理解不能で情熱的な動機がなかったので、嫌われる覚悟で踏み込む必要がなかった。あすかはそれに加えて、基本的にオレがオレがの精神で、春人のことを考える余裕がなかった。勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなしという言葉を刻みたい。



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