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【漫画評論】「ヴァンパイア十字界」 稀有なミステリーと唯一無二のヒューマンドラマ

ネタバレというほどのネタバレはないと思いますが、とにかく感想見る前に読んだ方がいいです

漫画を読んでると、こう思ったことはないですかね。自分はよくあります。どういうことかというと、こんなやつです。

何でこいつ○○しないの、とか。
何でこいつ○○したの、とか。
もっと○○すれば上手くいっただろ、とか。
○○だったらみんな幸せだっただろ、とか。

俺ならもっとうまくやれる的な、そんなツッコミです。みんなやってるんじゃないですかね。だから議論が盛り上がるというか。突っ込みながら読むのが漫画の醍醐味的なところはあるんですが、恐ろしいことにこのヴァンパイア十字界という漫画、それをやらせてくれないんですね。

何で○○、もっと○○、○○だったら上手くいった、そんなツッコミを入れても、それを上回るレベルで返答が用意されてるんですよ。お前の浅はかな考えなんかお見通しなんだよ、と言わんばかりに、あらゆる場所にカウンターが配置されていて、コテンパンにされるわけです。もう完全にフルボッコ。因縁吹っかけたら、こっちの顔面腫れ上がってるみたいな。

そして最後のページを読み終えた時にこう思うんですよ。あ、俺この作者に完全に負けたわ、と。こんなに心地よい敗北感が味わえる漫画は他にないですね。完全敗北。

こんな感じで考察も謎解きも十分に用意されてるし、どんでん返しもいくつも用意されてるし、その全てが超一流の品質と言ってもいいです。

まあ作画が超一流かはちょっと怪しいですし、多分トップ画でちょっとキツイと思った人もいるかもしれません。古い作品だし、おまけに物語の進みが遅いところはマイナス点です。

でも気にするほどのことじゃありません。巻が進むごとに作画は上手くなっていくし、スローさも解消されていくし。読む人はどんなことがあっても最後まで読んでほしいですね。最初の方で終わったら多分20点くらいの作品ですよ。最後まで読んだら大化けします。

ただ、そんな考察や謎解き合戦ですら、ヴァンパイア十字界という物語の前では些細なことにすぎないってのが、恐ろしいところですね。こんなもんは所詮おまけです。自分が考えるこの物語の本質は、逃げられない責任をひたすら負い続けるとはどういうことか、というヒューマンドラマにあります。最後まで読むと、考察要素だけだと単なる100点ですが、この稀有な100点ドラマが加わることで100×100=10000点に変化します。凄いインフレです。

このように素晴らしい作品な上に全9巻と短いので、ぜひお勧めします。



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