夜勤とパパ

 会社が落ち着き始めたこと、作業員が不足していること、現場の勉強をしなくてはいけないことなどから夜勤に駆り出されている。でかい駅の周りにでかいビル群を作るためにでかい下水管を入れる工事。経営業務から一転、土方作業はPCの前での頭脳労働しかしてこなかった人間にとって体力的にも精神的にも苦痛である。しかし、この会社で未来の家族にいい思いをさせるためには艱難辛苦乗り越えなければならない。強い決意。ちょーしんどい。

 その夜勤現場に元請会社から義理のパパの息子も監督として参加している。ちなみに義理のパパとは母親の内縁の旦那で、私の会社の役員、実情私の上司のようなものだ。義理のパパの息子からは、いかにも仕事に対しての自信に満ち溢れた青年という印象を初対面時に受けた。なんだか偉そうなのであまりいい印象ではなかった。だが、実際に仕事ができるのは間違いないし、もっと横柄な人間は建設業界には腐るほどいるので大して気にすることでもなかった。問題は私の内心の方にあったといえる。(人それぞれさまざまな家庭事情はあるのだろうが)稼ぎの多い父親に育てられ、父親と同じ仕事に就き、父親に仕事を教えてもらい、父親と同じ現場で一緒に仕事をし、その仕事に溢れんばかりの自信がある。そんな人に好感情を抱くことは私には難しい。嫉妬や羨望など滅多に覚えない私だが、どうにも醜い感情が抑えきれない。健全な自己肯定感の前に自らの不健全さが際立つ。防衛機制によって歪に高く積み上げられただけの自己肯定感を拠り所にどうにか生き延ばしてきたみじめさを突きつけられる。私の内心の問題でしかないが、彼をどうにも好きにはなれないのだ。

 両親が離婚するまでは父親がすきだった。思い出と呼べるほどの記憶はほとんどないが。借金、浮気、暴力のどうしようもない父親で、物心ついた時にはもう家にほとんど帰ってこなかった人間だったが、それでも父親がすきだった。たまに帰ってきて遊んでくれるのが嬉しかった。ゲームをしているのを見るのが好きだった。学校に行っている間にポケモンのレベル上げをしてくれて嬉しかった。いい思い出はその程度。他にはしてもらったことも買ってもらったものもほとんどない。そんな父親でもすきだった。離婚が決まると父親は家族の敵になった。父親をすきでいてはいけなくなった。本当はすきだったのに、だんだんと嫌いになっていった。嫌いになりたかったわけではなかった。父親の悪口を聞くたびに自分の存在を否定される感覚。形成段階でほんの少しの歪みを加えられた幼い心は、歪みを内側に隠し、一見綺麗な形に成長した。だましだまし生きてはいるが、不意に心の暴発が起こる。あらゆる方向に感情がたかぶり、ぐちゃぐちゃになってしまう。父親と子供というハッピーセットはトリガーのひとつ。トリガーが引かれた途端、羨ましい悲しいむかつく寂しいつらいがとめどなく溢れ出る。難儀なことだと思う。

 ただでさえつらい夜勤なのに面倒な状況も重なって最悪である。しかも役員なので夜勤に出ても割増賃金にはならない。そもそもドカタをやらされていることが腹立つ。作業員の増員が急務だ。

このように非常にストレスを抱えていますが、頑張って働いていますよって話、以上。

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