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西崎景
2019年9月16日 22:12
国吉轍・4「ほんと、このページよく撮れてますよねえ」 スタッフルームからバイトの茅野さんが話しかけてきた。今日は少し早くあがる濱くんの代わりに今から仕事だ。 VIDAのことだろう。スタッフルームのテーブルに出しっぱなしにしてある。「ああ、店も慧一もいい映りだ」「ほんと、城さん俳優さんみたいで。国吉さんも顔出せばいいのに」「俺じゃ失望させる」「え?」 クールな茅野さんの短い返
2019年9月16日 22:11
城慧一・4「はあ~、やっぱ写りいい」 オレがVIDAを眺めて呟くと、濱は「またですか」と呆れた。 なにが、またですか、だ。この古さと新しさが同居した佇まい、ひかえめにも主張する日々果という名前、バックの青空とのコントラスト、最高だろ。 VIDAはタウンルミナスと同じ出版社のフード系女性誌だった。今回はフルーツ特集らしく、色鮮やかでフォトジェニックなスイーツが多く掲載されている。
2019年9月8日 21:38
国吉轍・3「菊ちゃんはすごいよなあ」 というのが、その頃の俺と慧一の合言葉だった。 一向に飽きがこないフルーツサンドを頬張りながら、慧一はしみじみ呟いた。三年の初めには慧一もかなり背が伸びていた。おまけに華があるため、弓道部の大会で女子に随分人気なのだそうだ。本人が嬉しそうに報告してきた。 俺もまた背が高くなった。バスケ部を抜いて背の順は一番後ろ。靴の大きさは三十センチ。ローファー
2019年9月8日 21:37
城慧一・3 取材依頼の一件から一週間、轍と顔を合わせると空気はどこか硬くなった。 だんだんオレが勝手に拗ねているような錯覚に陥ったけれど、轍の態度を受け入れているわけではないということをどうにか伝えたかった。事実、せっかくの取材がおじゃんになって落ち込んでいた。 取材依頼はオープンした時から徐々に増えていた。雑誌やテレビでの取り上げだけではなく、近所の小学校や専門学校からも問い合わせ
2019年9月5日 22:48
国吉轍・2 それまでは、クラスも部活も違うから、慧一とはそんなに頻繁に会うわけではなかった。 けれど、二時限目の休みに購買に行くと、いつも慧一と顔を合わせる。一時限目が延びたり、移動教室からで購買への到着が遅れたりすると、慧一がフルーツサンドを確保してくれることもあった。もちろん、その逆も。妙な連帯感。昼に委員会がある時は一緒に弁当を食べるようになった。「城、その、頼みたいことがある
2019年9月5日 22:46
城慧一・2「タウンルミナス、松ノ丘特集で取材したいって」 オレが朝のミーティングで報告すると、案の定、轍は渋い顔になった。昭和の頑固親父のように、腕組みをして目を閉じている。 轍を後回しにして、バイトの濱にプリントアウトしたメールを見せる。タウンルミナスの編集者からで、企画内容の詳細が記されていた。 轍は今まで全ての取材を断っている。テレビや雑誌だけではなく、メールや電話でのインタ
2019年9月2日 21:19
国吉轍・1 慧一に初めて会ったのは、高校一年の保健委員会だった。そこまで印象に残っていない。当番が同じ曜日になったから、軽くクラスと名前を名乗りあったくらいだ。一年生で一八○以上あった俺に比べて、慧一はまだ小さくてひょろっとしていた。大きな目が見上げてきて、「バスケ? バレー?」 と訊いてきたのを憶えている。「……調理部」 慧一の期待に何一つ応えられない返答に、俺は罪悪感と羞恥で
2019年9月2日 21:17
城慧一(きづきけいいち)・1「すみません、フルーツサンド三つと、モモサンド二つください」 細っこい指がいつもの場所を指差す。いちごとキウイと黄桃をはさんだフルーツサンド。 ケースを見つめながら、中学生らしき女の子が注文した。決まってフルーツサンドを三つ頼む子だ。友達や気になる男子とっていうよりは、家族で食べてるんだろうオーダーにいつもほっこりさせられる。「はい、フルーツサンド三つと