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【BL連載】これがあるからやめられない08
国吉轍・4
「ほんと、このページよく撮れてますよねえ」
スタッフルームからバイトの茅野さんが話しかけてきた。今日は少し早くあがる濱くんの代わりに今から仕事だ。
VIDAのことだろう。スタッフルームのテーブルに出しっぱなしにしてある。
「ああ、店も慧一もいい映りだ」
「ほんと、城さん俳優さんみたいで。国吉さんも顔出せばいいのに」
「俺じゃ失望させる」
「え?」
クールな茅野さんの短い返事は少し尖っていた。俺は困惑する。
「国吉さん、イケメンなのに」
自然と、眉間にぐっと力が入った。
「コンプレックスをからかわないでくれ」
「ほんとなのになあ」
やれやれと肩を竦め、茅野さんは店内へ出ていった。
内線が鳴る。俺は手を拭くと子機を掴んだ。
またどれか売り切れになったんだろうか。夕方は客も増え、ばたばたと売り切れが続出する。いまつくり終えたフルーツサンドの他に、なにかなくなったのだろう。
「はい」
『おう、フルーツサンドつくり終わった?』
「ああ」
『じゃあ、裏口開けてくれ』
俺は首を傾げた。サンドは全て店内を経由して店頭に出される。わざわざ裏口を開けるとなると、荷物でも届いたんだろうか。
調理着を乱雑に脱ぎ、俺は裏口のドアをノックして開ける。
にやにや顔の慧一がいる。そして、慧一に肩を抱かれてにこやかな顔の老婆が立っていた。
まじまじと見つめる。白い髪、銀色の眼鏡の蔓、丸い瞳と丸い顔と丸い肩。
言葉が出てこない俺を見て、彼女は小さく肩を揺らした。
「……ふふ、ふふふっ」
けれど、自分からなにも言わず、軽やかな笑い声を上げている。
「――き、菊ちゃんっ!?」
叫んでから、ハッと口を押えた。俺の声が店内まで響いていないことを祈る。
「轍、すごいだろ!」
「雑誌で城くんを見てね、ああもしかしてって。孫に聞いたら、いつも買ってくるところだっていうのよ? 笑っちゃうでしょ?」
慧一は自慢げに胸を張っている。これはしばらく引きずるぞ……。
菊ちゃんはあの時より少し小さくなった背で見上げてくる。
「ふふふ、あの時は食べられなかったけど、いただいてもいいかしら?」
迷いや恐れはなかった。
ずっと願ったまま叶わなかったことが、目の前にある。
「はいっ」
拳を握ると、一緒につくっている慧一が、俺より嬉しそうに笑っている。
『日々果』は今日も盛況だ。
(了)
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