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西崎景
2019年10月20日 22:01
国吉轍・3 桜が満開になる頃、蒼が会おうとメッセージをよこした。買いに行こう、とは言っていないので、暖かくなってきたしいつもの広場で話そうということになった。 春の訪れで街は賑わっている。子どもから老人まで、まるで日に当たるのが幸福だと言わんばかりの人出だった。スイーツを持ち寄っていたベンチは先客に奪われ、俺はその近くのカフェ前で蒼を待つ。 蒼はいつものように一人で現れた。髪を切った
2019年10月13日 21:31
城慧一・3「轍がそんな信頼するスイーツ仲間ってどんな奴よ」 我慢できなくなって、轍に訊いてみたのは定休日の晩だ。軽い夕飯を済ませて、バラエティー番組を眺めていた轍に、オレは頑張って質問した。 轍は「ああ」と軽く相づちを打ち、視線をよこす。そこに後ろ暗さがないから安心はしたが、未知の領域に進むうすら寒さをおぼえた。「実は今度高校生になる子で」「え」 飛び出たのは、予想の斜め上を行
2019年10月6日 21:22
国吉轍・2「轍さーん!」 午後十一時半。三月に入り、日の光が段違いに暖かくなった。 薄いコートが多くなってきた駅前、人混みの向こうに蒼(あおい)を見つける。 パティスリー510で出会った少年――蒼は中学三年生だった。卒業までほとんど授業がないらしく、平日も限定スイーツを買いに出てくる。水曜日にも関わらず、パーカーとジーンズで街にいた。「買えたよ、こっち! キャラメルとモカと両方!
2019年9月30日 21:45
城慧一・2 ここんところの休日、轍はいつも一人で出かける。 限定スイーツの行列で知り合いができたらしく、以前より頻繁に買いに行くようになった。スイーツの行列で轍と仲良くなる奴がいたのは意外だし、轍が仲良くなろうと思ったのも意外だった。一九〇センチで辛口の顔立ちは、女子どもにはおっかないだろう、というのが轍のコンプレックスを差し引いても出てくる想像だ。だから、単純に嬉しかった。それは、轍
2019年9月23日 21:52
国吉轍・1 もうすぐ三月になるといっても、朝の冷えこみはまだまだ真冬だ。 ふとんを出た時のひんやりとしたフローリングと居間の冷たさに体がふるえる。 テレビをつけると、ワイドショーのキャスターが今日は風が強いと告げていた。定休日の水曜日、重い腰を上げてスイーツ巡りに出かけようというのに、この予報はあまりに酷だ。自分が寒さに弱いとは思わないが、長時間屋外で並ぶ時に風は堪える。 カジュア
2019年9月20日 13:42
城慧一(きずきけいいち)・1「なあ、轍(てつ)。オレ、ラブレターもらった」 閉店作業の後、休憩室から調理場の轍に振り返ると、オレはおもむろに口を開いた。 床にモップをかけていた轍の腕が止まる。「マジですか!?」 帰る支度をしていたバイトの濱が色めきたつ。同じくバイトの茅野(かやの)ちゃんは、へえ、とクールな反応だった。 黒髪のつむじを見ながら、オレはにやにやと次の反応を待った。