新たな幸せ

奨励会を退会し、東京に来て６日目のことである。今朝のことだ。朝7時姉に誘われて、東京代々木公園に向かった。
運動と、少し堕落しかけているルーティンを戻す為だ。

姉が飼っている犬はあむちゃんと言い、とても可愛い。可愛い過ぎて散歩すると良く道ですれ違う人に声を掛けられる。

奨励会を退会して次の日やった事はあむちゃんとの散歩だ。その日からほぼ毎日近所を散歩させて頂いている。あむちゃんは家のボスなので当然私より偉い。散歩する道は
あむちゃんに決めてもらっている。私がリードされている。この時は可愛いと思ってたはいえ、犬の本当の魅力にまだ全然気づいていなかった。

話は序文に戻る。
朝7時に家を出て代々木公園に、姉とあむちゃんと私で向かう。晴れ晴れとした天気で、冬の少しひんやりする空気がまた心地よい。そして歩いているあむちゃんがとても可愛い。私がリードを握り、姉は写真担当。朝からアイドルである。

30分程歩き代々木公園に着いた。東京とは思えない自然が広がる広い公園。都会のオアシスとも言うべきか、とりあえず走って芝生で寝転がってみる。結構寒い。しかし寝心地は良い。起き上がってみると、姉は暖かいコーヒーをベンチに座って飲んでいる。あむちゃんは姉のお膝の上だ。なんとも優雅だ。これが社会人の余裕だろうか。
私はまだ社会人ではない。二度寝をした。

しばらくして、姉が声を掛けに来た。ドッグランに行こうと。なんぞやそれは、わくわくした。
ドッグランに三人で歩いて向かう。歩いている途中に、飼い主さん達とすれ違う。目的地に近づいてるのを感じる。すれ違う事に犬に目が奪われる。無邪気に飼い主達と戯れる犬。心がギュッとなった。なんだろうこの気持ち。

奨励会15年、他者を倒して生き延びる世界にいた私は、誰かの為に生きるなんて感情は分からなかった。ましてやペットに愛を注ぐなんて。

色々考えていたら、ドッグランに着いた。沢山の犬がいる。私は特に大型犬が気持ち良く走ってる姿に目を奪われた。なんて言う疾走感。爽やかと言う漢字は実は犬爽で良いんじゃないか。
可愛い可愛いすぎる。ここで自分の気持ちに気づいた。自分以外の者に愛を注ぎ、注がれの幸せだ。

その気持ちに気づいてから再びあむちゃんに目を向ける。より可愛いく見え始めた。我が家のボスは最強だ。あむちゃんはドッグランに入った後中々走り回らない。少し他の犬に緊張しているようで、私のお膝の上から離れない。

それで良いんだ。
でも走りたいよな。

姉に聞くとあむちゃんは小さい頃はドッグランで走っていたようで、その時に他の犬にちょっと絡まれてから緊張するようになったらしい。人前では走れるようで、ドッグランから出て走る事にした。
テンションが上がりまくりの私はiPhoneでロッキーのテーマを流しながらあむちゃんと走った。坂を一気に駆け上がり、両手をまっすぐ上にあげる。なんて気持ち良いんだ。

帰り道姉に代々木近辺の家賃を聞いた。犬の世話代にかかる値段も聞いた。この幸せを手にする為に頑張ろう。一緒にシベリアンハスキーと走る自分を思い浮かべながら。