循環型事業について語る 西山哲弘
農業や漁業に携わるようになってから、循環型の事業モデルをいつも意識している。循環型の事業モデルとは廃棄物がでないようにする地球環境に配慮した事業モデルのことだ。
例えば、農業では佐渡島で島黒豚という豚を放牧しているが、豚を育てるには飼料がいる。飼料を育てるための畑は豚が耕している。
これはどういうことかというと、放牧している豚は土を掘り返して雑草を根っこから全て食べてくれる。中にいる虫から種から何でも土と一緒に食べてしまうのだ。
豚が掘り返した土は空気をよく含んでいて、さらに放牧なのでその土に糞をし、尿をかける。1年も豚を放牧した土地は自然と耕され肥料を多く含んだ、よく肥えた土になる。
もし人がこの畑を作ろうとしたら、土を掘り起こすための大きなトラクターがいるし肥料代もかなりかかるだろう。人力で行うとしたら途方もない労力がいる。
季節の変わり目には島黒豚は別の収穫の終わった畑に移動させる。そして豚を放牧させていた場所で野菜を育てる。
収穫が終わった畑にはトマトであれば茎や根などはそのままにしてあるので、それが豚の餌になる。
また本来は廃棄物になってしまうような端くれや形の悪い物なども無駄なく豚の餌として利用する。
豚が耕した畑には驚くことに雑草がほとんどはえない。雑草の種から根から豚が食べてしまうからだ。
土の力と佐渡の水によって作物は良く育つし強い。有機栽培で育てているので味が濃く水分をしっかりと含んだ野菜ができる。
ケージ内(屋根のついた寝床のような小屋、出入りは自由)でした糞で堆肥を作り、それを畑以外の作物の肥料として使い、収穫の際にでる捨てられる茎や葉などを豚の飼料にする。
島黒豚を放牧させることで畑を作り、その畑で野菜を育て、またその野菜を作っている間に畑が島黒豚の餌を育てる。島黒豚が餌になる作物のための肥料を作る。
私たち人間はストレスなく育った豚を、感謝を込めて頂戴し、野菜を収穫する。そうやって毎年毎年、畑と放牧地を循環させることで、大幅に費用を削減し、良質な畑で育った有機栽培の作物を収穫し、放牧された島黒豚を出荷することができる。
現在の一般的な豚の畜産では、豚は生まれてから出荷されるまで、豚小屋から出ることはない。狭い柵に囲われた中でひたすらに餌と水を与えられて生きていく。
当然あれだけ大きな生き物が動く場所もなくじっとしていればストレスは大変なものだ。
ストレスが大きいとどうなるか。
それは豚も人間も同じだ。病気になる。
それを出荷まで持たせるために薬を使う。全ての養豚場でそういったことが行われているとは言わないが、豚の放牧がほとんど行われていないことは事実だ。
酷いところでは真っ暗な豚舎で日光すら入らず、死ぬまで真っ暗な中で過ごす豚もいるという。そこには食に対する感謝が微塵も感じられない。
私は動物愛護団体のようなことは言わない。ビーガンのようなことも言わない。人間は植物も食べるし動物も食べる生き物だ。
犬や猫だって虫をはじめ動物を食べる。野良猫は蛇と戦うし、鳥も捕まえて食べる。
鳥が猫に食いちぎられているのを見て「鳥がいじめられている可哀想」などと思うのは馬鹿げている。
それは自然なことだ。人間が動物を可哀想などという理由で食べないのは根本的に間違った考え方であると思う。
ただ必要なことが一つある。それは感謝だ。食べるとき、収穫するとき、出荷するとき、そこには「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」という感謝の気持ちがある。
これは農家や畜産の経験者なら当然持っている自然な考え方であるように思う。日本語がそれを表している。
ご飯を食べる前に「いただきます」と作ってくれた人、そして自分がこれからいただく作物や肉に対して感謝を伝える。
そして食べ終えたら「ご馳走さまでした」とまた感謝を言って食事を終える。命をいただくというのはそういうことだと思っている。
感謝の念を持てない人たちが、そのことを知らず、忘れ、文句を言う。お客様は神様などという言葉があるが、お客様も生産者も販売者も人間である。神様などそこにはいない。
食べる野菜や肉には生産者がいるし、それを売り場に並べる販売者がいる。その販売場所に届ける流通、それを支える運転手がいる。
そして何より野菜や肉を自然が作っている。
それを調理し料理する人がいる。
必要なのは哀れみではなく感謝だ。
循環型の事業モデルは、育てて出荷するまでのプロセスにおいて、一貫して感謝の気持ちを持っている。
豚を放牧し、自然のままで育てる。それを畑に利用するのは人間の知恵である。大量生産のために効率と収穫量だけを求めてきた結果、病気の豚の肉や農薬漬けの野菜を毎日食べている。
それによって様々な現代病が起こっている。感謝を忘れた結果、それが自分たちに返ってきている。野菜や肉のために使った化学物質が人間に蓄積している。
現代の技術や知識を使って、そういった課題をクリアにしていきたいと思っている。循環型の事業モデルもその一つだ。
地球環境に配慮し、ストレスのないように動物を育て、農薬を使わない作物を育てる。それが毎年自然に循環されていく。人はその循環を助ける。それをしっかりと事業化し、収益を得る。
私たちの目指す農業や畜産、漁業などは、そういったビジョンで行っている。最先端の技術は大量生産、大量消費に使われるのではなく、これからは、地球環境に配慮したエコロジーと感謝を持った一次産業へと使われ生まれ変わっていく。その段階にシフトしている。その流れを強く背中に感じている。