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インビジブル 三面記事小説


1.未来チャンネル


 契約料金は初回のみ三千円、一週間以内に振りこみしていただければ結構です。これから、どんどんコンテンツを増やしていきますので楽しみにしていてください。
 
 入社三年目で営業成績はトップ。
東京本社で出世することが約束されたようなものだった。
「今日から、販売促進グループの課長として来られた木南 亜希さんです」
朝礼で山口部長が私をみんなに紹介してくれた。
その中にいた男性社員の一人が近づいてきた。
「初めまして。高井と申します。木南さん、関西の同期から噂は聞いています。よろしくお願いいたします」
「さぁ、本社の中を案内するよ。早く環境にも慣れてもらってバリバリ仕事してもらわないとな」
そういって山口部長は私を販売促進グループの部屋から連れ出した。
「本社は、立派な建物ですね。こんなところで働けるなんて夢みたい」
時々、すれ違う社員が私の顔をじっと見て通り過ぎてゆく。注目されている。そう感じて気分がよかった。
「今日は午後から、ざっくり仕事の引継ぎをするよ。それから夕飯でもどうだ?」
「ええ、喜んで」
「君の希望はできる限り叶えてあげたいと思ってる。ごめんな。こんな事しか力になれなくて」
「いえ、もうその話は止めてください。本社に呼んでくださって感謝しています。部長と一緒に働けるなんて本当に嬉しく思っています」

 山口部長と私は不倫関係にある。部長夫婦の間には、十五歳になるお嬢さんがいらっしゃる。そのお嬢さんは中学生の時、いじめに合って以来、部屋に閉じこもって外にでてこなくなった。部長の奥さんは、お嬢さんの将来を不安に思いヒステリックになり、仕事で忙しい部長を責めていた。言い訳に聞こえるかもしれないが、部長には心の拠り所が必要だったのだ。

  関西支社にいた頃、私には付き合っている人がいた。彼は上司かからパワハラを受けて以来、会社を辞め定職につかずにいた。私は、そんな彼を居候させ、こずかいをあげるなどしていた。不満を抱きながらも中々縁を切ることが出来なかった。
 ある日、彼が私の部屋から荷物を持って出て行った。他に女がいたようで住むところが見つかったのだろう。私にとって、負担になっていた彼がもめることもなく、あっさりと離れてくれたのは都合が良かった。
以前から仕事ができてリーダーシップを発揮する山口部長に惹かれていた私は、彼と別れて以降、家庭がある山口にのめりこんでいった。山口が大阪に出張に来るたび逢瀬を繰り返していた。そんな時、私は妊娠した。その時の山口の困惑した顔は今でもよく覚えている。私は、赤ちゃんをおろすことになった。その罪滅ぼしのため、山口は私を東京へ呼んだ。

 東京での初日が無事終わり部屋に戻った。
チャンネル表に目を通す。
“未来チャンネル“
十一時から始まるようだ。リモコンのボタンを押した。
テレビ画面の中に映し出されたのは、ヒモだった彼がIT会社社長として成功し、新聞に取り上げられている様子だった。
「まさか!あいつが?」
すると、場面が変わった。
彼は資金集めのため、私に有力者の元へ行きサービスをするよう強要していた。
「なにこれ?」
そんな彼に耐え切れず、私は包丁で彼を刺し殺す。
手錠をかけられ逮捕されているシーンが流れた。彼を選んでいたらこういう未来が待っていたという事なのだろうか。
自分の未来を映し出すチャンネルだとしたら、私は彼と既に関係のない場所にいる。
次の日、出勤した私は自分の机に上に置かれた朝刊の見出しをみて驚いた。
「IT社長、売春あっせんで逮捕」
昨日見た放送は、未来を映し出してくれるチャンネルだった。思わず微笑んだ。
自分の未来が分かるチャンネル。この日以来、毎日、未来チャンネルを見るようになった。

-----部下たちから祝福され、大きな花束を持っている私が映し出された。
何のお祝いなんだろう?
その時、聞いた事がある声が聞こえた。
「部長代理おめでとうございます」
高井君だ。東京本社の初日、朝礼の時に挨拶を交わした彼だった。
ということは、近い将来、私は昇進する。
「すごい、私が部長代理になるなんて」
 あの当時、本当に悩んでいた。子どもを産むには丁度良い年齢だった。でも、本当に山口の事が好きだから負担になりたくなかった。
あのままヒモ男といたら、私の未来はとんでもない事になっていたと、未来チャンネルが教えてくれたのだった。

 東京での仕事は順調だった。会合や会食には出来るだけ参加した。
部下とのコミュニケーションを深めるためランチや夕食もなるべくみんなと一緒にとるようになった。特に、高井君はとても優秀で私のサポート役として一生懸命仕事をしてくれる。

 季節は秋の風を感じる季節になっていた。数か月ぶりに未来チャンネルを見ることにした。

-----手錠をされ、両脇を刑事に抱えられた私がパトカーに押し込まれている。
マンションの周りいる大勢の野次馬の中に、山口がいた。
山口は、なんとも言えないような顔をして連行される私を見ている。
なに?どういうこと?
なんで、私は逮捕されているの?
これは、何かの間違いだよ。
私は、あわてて視聴していなかった数か月分を見ようとリモコンを操作した。前の回が見れない。
急いで契約書類を探し、記載されている電話番号に電話した。
私の焦っている様子とは対照的に悠長に音声ガイダンスが流れる。
急いでボタンを押し、やっとオペレータに繋がるところまでたどり着いた。

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