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小説家の頭の中

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日々のこと。書籍化にいたるまでの話など。
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#読書の秋2022

山中伸弥さんも読んだ科学者のエッセイ

 当時住んでいた街には古本屋が多くあった。山側へ上がったところの古本屋は、本の種類が多く珍しい洋書がたくさんある。 適当に積み上げられた本が乱雑に置かれていて通路も狭い。 ここの店主は、買い付けばかりして整理が追いついていないのだろうと、奥に座って店番をしているおじいさんに目をやった。  とりあえず、手前の山から物色する。 よく見ると、それぞれの山が分類されていることに気が付く。 「お、やるな!」 おまけに古くて見たこともない洋書がある。年代ものだと感じるくらい、少し茶色か

太宰治について

 芥川龍之介「鼻」 この話、好きです。 長い鼻のお坊さんは、色んな方法で鼻を小さくすることに成功する。 これでみんなに笑われない。 そう確信していたのに、前より笑われるているような気がする。 悩んでいるうちに、ある日、元の鼻に戻ってしまう。 これで、もう誰にも笑われない。    世間は、長い鼻を気にしているお坊さんのことを笑っていたということ。 コンプレックスを悟られまいとするお坊さんに人間らしさを感じます。 短編なのに深い内容で、さすが!芥川龍之介です。

濹東綺譚で永井荷風が言いたかっこと

 濹東綺譚(ぼくとうきたん)は、永井荷風の短編小説です。 作家 (荷風)が一人の娼婦に入れ込み、足しげく通うという内容ですが、完全に割り切った間柄でなく会話が粋です。 商売なんだから、お金を払ってお世話になったら「はい!さようなら!」でいいはずなのに。 遊び慣れた荷風だから、娼婦に対しても愛を持って接していたのかも知れません。  さんざん女遊びをしてきた荷風ですが性欲の衰えを感じる年齢になっていきます。 「花の散るが如く、葉の落(おつ)るが如く、わたくしには親しかっ