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嗤う妻

少し前のはなし。
夫が腸閉塞で入院をした。入院日数は4泊5日。
治療は点滴のみで、退院時の薬の処方もなく、食事の制限もなかった。退院の翌日から出勤してもよく、週末のゴルフも構わないという。つまり腸閉塞といっても軽症ですんだ。
激痛に耐え、くの字に体をまげて横たわる姿は気の毒であったが、大事に至らず幸いであった。しかし、一方でこの顛末を嗤うわたしがいる。

夫は10年以上、週末に筋トレと6キロ程度のランニングをつづけている。毎日欠かさずにトマトジュースと豆乳を飲むのは長生きをして20年後、30年後の日本をみたいためらしい。
努力の甲斐あって、長いこと健康診断の数値を正常範囲内にとどめている。そして、この良き結果はさらに夫の体力づくり精神をくすぐり、筋トレとランニングに邁進しているようだ。まったく、このひとは、どこに向かっているのやら……。

ことほどさように、健康に気をつかっているというのに、家族の一大事、だれも具合が悪くならないでね、という時期に夫は具合が悪くなる。
たとえば。
次女の大学受験のさなか2度もインフルエンザになり、ホテルに自主隔離したり。数年前の初夏、わたしが眼窩底骨折をして、動けなかったときに季節外れのインフルエンザになって家庭内隔離をしたり。

それだから昨年の11月は気が気じゃなかった。月末に仮住まいから改造した自宅に戻るための引っ越しを控えていたからだ。パパ、コロナにならないといいね。祈るような気持ちで娘たちと何度もこんな話をしたけれど、思えば話すたびにわたしたちは覚悟をきめていったようなところもあるのかもしれない。

そんななか夫からメールが届いた。
「腸閉塞で、入院決定」
 
ああ、やっぱり。
心配よりも、笑いがこみ上げた。すぐさまネットで腸閉塞を調べ、大事には至らないだろうと予想もした。このこみ上げる笑いは嗤い。心底心配をしているけれど、どうしても嗤っちゃう。

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