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「普通の歌詞の曲」こそが、最高の文学作品なんだって話。

ずっと夢を見ていたいのに 
決まった時間に今日も 
叩き起こされるんだ 
大きな欠伸くらい許してよ 
酸素が足りずに今日も 
産声を上げているんだ
 
小さな惑星の 
いつもの街角の 
何気ない陽だまりの中で

これぞまさに、文学だと思うんですよね。

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みなさんはどんな音楽が好きでしょうか?
僕は、めちゃくちゃ音楽に関しては雑食です。
特に、邦楽・つまりJ-POPは、手当たり次第に聞いてきました。ロックもバラードも恋の歌も希望の歌も、荒井由美もヨルシカもスキマスイッチもガリレオガリレイもB U M PもR A Dもボカロも、なんでもかんでも聞いてきました。

そんな中でもふと、なんとなく、なんの気無しに自分の人生を振り返ったときに、無性に聞きたくなる曲があります。
ロックや、愛や恋の曲や、夢を持てだの希望を持てだの、そのような曲を聴きたくなることもあるのですが、そういう曲に対する熱はすぐに冷めてしまいます。

ずっと聴きたくなって、気が付くと何度も何度も聞いている曲。
それは、「普通の曲」です。
つまり、普通に今生きている僕たちを肯定も否定もしてくれないし、エールも希望もくれないけれど、“こうゆう世の中だよね”と日常をそのまま形作ってくれるような曲というのに思いを馳せることがあります。

「小さな惑星」の文学

具体的に、King Gnuの曲から紹介します。
彼らのヒット曲と言えば、「白日」とか、「Prayer X」ですね。ちなみに僕は「Teenager Forever」がめちゃくちゃ好きです。
しかしそれとは別に、ふと聞きたくなるのが、「小さな惑星」という曲です。

ずっと夢を見ていたいのに 
決まった時間に今日も 
叩き起こされるんだ 
大きな欠伸くらい許してよ 
酸素が足りずに今日も 
産声を上げているんだ 
小さな惑星の 
いつもの街角の 
何気ない陽だまりの中で
凍った愛が静かに溶け出したんだ
街から仄かに春の匂いがした
結局何処へも行けやしない僕らは
冬の風に思わずくしゃみをした

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【King gun「小さな惑星」より抜粋】

この歌詞の中では、何も起こっていません。愛も感動も、希望も絶望も歌っていない、何も起こらない普通の曲です。
何も起こっていませんが、どこか、心のどこかに、僕たちの普段の日常が想起されるような仕掛けがたくさん散りばめられています。

ずっと夢を見ていたいのに、決まった時間に今日も叩き起こされるんだ。大きな欠伸くらい許してよ。酸素が足りずに今日も産声を上げているんだ。

「朝起きて、欠伸をする」というただの当たり前の現実を、こんなに鮮やかに、そして情景がありありと浮かぶ形で、文学的に表現してくれた歌詞があったでしょうか。

そう、文学。
この歌詞は、紛れもなく「文学」です。

文学というものは、「当たり前の日常を切り取って、その当たり前の日常が、どこか輝きがあるように見えてくるような切り取り方をしてくれるようなもの」を指すと、僕は思います。
だから、普通の人生を、当たり前の日常を。切り取って歌にしている音楽は、全て、文学です。この「小さな惑星」は、その最たる例なのだと思います。

「私生活」の文学

この視点から曲を探して見ると、面白い曲を見つけることができます。
例えば東京事変は、いろんな曲がありますね。
恋の歌・カッコイイ歌・生き様……たくさんのヒットソングがあります。
ただ僕が一番良いなと思うのは、「私生活」と言う曲です。
作詞はもちろん、椎名林檎さんです。

酸素と海とガソリンと
沢山の気遣いを浪費している 
生活のため働いて
僕は都会(まち)を平らげる
左に笑うあなたの頬の
仕組みが乱れないように
追い風よ さあ吹いてくれよ
背後はもう思い出
向かい風まで吸い込めたら
やっと
新しくなる

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【東京事変「私生活」より抜粋】

これは、何気ない、私たち一人一人の生活を歌った曲・まさに「私生活」を歌っています。
自分の生活や、自分が生きていることを切り取って歌詞にしている。
その切り取った先に見えてくるものは、どことなく物悲しい雰囲気もありつつ、背後の思い出に想いを馳せると、何か、新しい風のようなものが吹く。そんなことを教えてくれる曲だと思うんですよね。

「1999年、夏、沖縄」の文学

取り沙汰されるヒットソングというのは、メロディーや歌詞がかっこいい曲で、どこか尖っていて、愛や悲恋を歌ったりとか、元気になれる曲だったりします。
ですが、そうではなくて、「日常」を切り取った曲というのは、また違う視点から、かっこいいなと僕は思うんです。

例えば、Mr. Childrenで言えば、「1991年、夏、沖縄」という曲があります。これは歌の名前なの?と思うかも知れないのですが、そういう曲名なんです笑。
で、この曲の歌詞がまた、「普通」なんですよ。

僕が初めて沖縄に行った時 
何となく物悲しく思えたのは 
それがまるで日本の縮図であるかのように 
アメリカに囲まれていたからです 
とはいえ94年、夏の沖縄は 
Tシャツが体にへばりつくような暑さで 
憂鬱なことは全部夜の海に脱ぎ捨てて 
適当に二、三発の恋もしました 
ミンミン ミンミンと蝉が鳴いていたのは 
歓喜の歌かそれとも嘆きのブルースか 
もはや知るすべはないがあの蝉の声に似たような 
泣き笑いの歌を奏で僕らは進む

ここまででも、普通の男の人の、普通の夏の風景がありありと浮かんで、そしてそれがキラキラした輝きでもって僕らの前に現れます。
が、この曲の素晴らしいところは次のサビです。

いろんな街を歩き 
いろんな人に出会い 
口にしたさようならは数しれず 
そして今想うことは 
大胆にも想うことは 
あぁ 
もっともっと誰かを愛したい

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【Mr.children「1999年、夏、沖縄」より抜粋】

なんと言ったらいいんでしょう。
当たり前のことを語っているだけなのに、どこか、かっこいいんですよね。自分たちが見ている光景や自分たちが普段何気なく生きている世界に対し、物悲しい思いはどこから来ているのか……とか、蝉の声が何に聞こえたのか……とか。当たり前のものを扉にして、違う何かを訴えかけてくれる。
「感性」、というものに訴えかけてくれる歌詞なんだと思います。

米津玄師の文学

歌詞が文学的な曲は、日常生活を愉しくしてくれるようなファクターが含まれています。例えば今を代表するシンガーソングライターの米津玄師さんの曲には、食べ物や飲み物が割とよく出てきます。

「Blue Jasmine」という曲があり、これは割とマイナーな曲みたいなんですが、僕は大好きな曲です。

あなたの思い出話を聞く度 
強く感じているんだよ 
僕はその過去一つ残らず 
全てと生きていると 
差し出したジャスミンのお茶でさえ 
泣き出しそうな顔をして 
戸惑いながら口を付けた 
あなたを知っているよ 

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【米津玄師「Blue Jasmine」より抜粋】

途中で、お茶が出てきますよね。
このお茶が泣き出しそうな顔をしているのか、このお茶を泣き出しそうな顔で飲んでいるのか。
日常生活でよく登場するものが出てくると、みなさん少しどきっとしませんか?
米津さんの曲はこんな風に、途中で食べ物とか飲み物が出てくることが割とあります。「クランベリーとパンケーキ」という曲名の歌もありますし、「メランコリーキッチン」というの曲の中だとポテトとパスタが出てきます。

少し薄味のポテトの中
塩っけ多すぎたパスタの中

部屋に残してった甘いチェリーボンボン
無理して焼き上げたタルトタタン

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【米津玄師「メランコリーキッチン」より抜粋】

いつもそれらは何気なく食べているものです。
しかしそれらが確かに、全く違う見方があることがわかる。そういうことに気づかせてくれるところが、最高に文学なのだと感じます。

文学とは、カメラかもしれないって話。

当たり前のものが、当たり前のことではなくて、キラキラしたものなのだと気づかせてくれる。そういう意味が、文学にはあると思います。

僕は去年、株式会社コルクの副会長のしんどうさんという方とフランスに行きました。
その人に、ライカというとても高いカメラを買ってこいと言われたんです。
「なんでそんな高いカメラを買うんですか?」と尋ねると、こう答えてくれてくれました。

「西岡くん、このカメラは白黒でいろんな物事を切り取れるカメラなんだけど、撮って確認してみたときに、たぶん君は気づくんだ。

普段の何気ない日常や自分たちが見ている風景というのは、切り取られてまったく違う色を見せられたときに、本当は違う色・テイスト・芸術性そうゆうものを帯びているかも知れないということに。」


そのときは、僕はただ「ふ~ん」と思って、ライカを買って、フランスで沢山写真を撮りました。そしてその結果、今でも写真を撮るのが趣味です笑。

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こんな写真を撮りました。
たしかに、自分の目で見るのとは違った色合いがあって、僕は写真を見返す度に非常に嬉しく、楽しく思いました。

ちなみに、僕と全く同じようにフランスで写真を撮りまくっていたのが、ロードオブメジャーの北川さんだそうです。
最近、その北川さんは「君がいるから」という曲を発表し、その誕生秘話をご自身のnoteで語っていらっしゃいましたが、やっぱり日常生活の中で見えてきた光景を、歌詞にしていらっしゃったとのことです。

ああ 忘れていた 掻き鳴らす音が
世界のど真ん中だったこと
ああ おもいだした
ぼくの声が 君のこころに 届いていたこと

【北川けんいち「君がいるから」より抜粋】

これは、「当たり前のことに気づいた」というその瞬間を歌詞にしています。そしてこういう歌詞を聞くと僕は、「ああ、文学だなあ」なんて思うわけです。

まとめ

ということで。

ヒットしている曲でもないし、希望を歌ったり絶望を歌ったり恋を歌ったり悲恋を歌ったり、ドラマがあるわけでもない。
そんな歌詞こそ最高に文学なんだぜって話でした。
みなさんもそういう歌詞の曲を見つけたら、また教えてください。
よろしくお願いします!

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