作品「月の人」


月の人           
 
 
たぶん
しかたなく
地球にやってきた
月の人を
知っています
初めて会った日は
本当に驚きました
だって
雰囲気が異質なんですから
全身が
のほん というか
ほほん というか
不思議な薄いヴェールに
包まれていたのです
まったく
見ないタイプの人でした
だから
僕は緊張しました
言葉がきちんと通じるかと
心配もしました
ただ顔をよく見ると
いつも眠たそうでした
きっと
地球に不慣れだったのでしょう
性格は
案外気さくで
いろいろと話をするようになりました
晩ご飯を食べに行ったり
一緒に酔っぱらったりするようにもなりました
でも
なぜか月の人は
僕が大事な話をしようとすると
きまってあくびが出るようです
やっぱり
地球の人は退屈なのでしょうか
それとも
まだ眠たいのでしょうか
まあ
そんな付き合いが今も続いています
これまで
月の人の話題を出したことは
一度もありません
いつか
「私は月の人です」 と
告白された時
「知っていたよ」 と
軽く言い返してみたいからです
少しは
僕を見直すでしょう
「そろそろ月に帰ります」 と
宣言されたら
「僕も行くよ」
そう言おうと決めています
 
 
 
 





『歩きながらはじまること』(七月堂)
『朝のはじまり』(BOOLORE)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?