見出し画像

読み応えガッツリ!粋な心意気の時代物『口入屋兇次』

江戸が舞台のゴツい世話物

口入屋とは職業斡旋業者のこと。その口入屋を営む兇次(きょうじ)は、お江戸では知る人ぞ知る「人物の目利き」として、人と仕事の縁を結んでいる。

大柄で強面だが清濁併せ呑む器の大きさと、面倒見の良さで兇次を慕うものは多い。

縁あって兇次と知り合い、やがて兇次の預かりなら間違いのない人物だとの太鼓判を押され、新しい職を得て幸せに暮らしていく人々の物語……と書くと、まるで池波正太郎や宮部みゆき原作のNHK時代劇ドラマみたいに思われそうだが、これはNHKでドラマ化しない(できない)類の時代劇だ。

確かに心地よい「しみじみ感」はあるけれど、お茶の間時代劇の構成要素「ほっこり」のカケラもない。むしろ、拷問やら制裁やらの「エグみ」がいい具合に物語に華を添えている。

『鬼平犯科帳』が好きで、昭和の人気時代劇『必殺!仕置人シリーズ』も好き、という人にはうってつけの作品だ。

なにしろ、口入屋稼業を一緒に支えているメンツが曲者揃いだ。

男前すぎる姉御の双葉、女たらしの三筋、凶犬使いで荒法師の四狼、拷問好きなオカマの医者である零二。

そのほか、スゴ腕の帳簿読みの女、したたかな情報戦を打つ瓦版屋など、兇次の配下は濃すぎるメンツだが、なによりもその道の超一級のプロで固めている。

問題が起こってもいぶし銀の仕事ぶりでゴリゴリと状況をひっくり返すのが何とも気持ちいい。

3巻読み切り、見事な伏線回収の清々しさよ!

全3巻の中では3つの物語が紡がれている。

身を売る寸前まで落ちた武士の妻が悲しくたくましい『夜鷹の秘め事』。

冤罪を着せられて全てを失った男の新天地を描いた『織られた罠』。

「どこに出しても恥ずかしい娘」に育てられたお嬢の再生記『貞女の始末』。

それぞれ独立したどっかりとした物語になっている。

通して3巻を読むと、初めてそれぞれのお話が互いに伏線となっていることに気づくという粋な構成に唸りつつ、見事な伏線回収のカタルシスが味わえる。

こうしたマクロな面もさることながら、「江戸に行ってきて見てきたままを書きましたか?」というくらい言葉遣いやしぐさ(「江戸しぐさ」じゃないよ!)、眉のないキャラデザといったミクロな部分がこの上ないほどにリアルで丁寧。

読後の充実感と爽快感にひとしきり酔ったあとに、おそらくこう思うだろう。岡田屋鉄蔵先生、こんなマンガを描くあなたはいったい何者なのですか?と。


※本記事は「マンガ新聞」2018年09月17日掲載レビューの再掲です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?