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フランス人も魅了されたゾンビ満載作品『クルエラー ザン デッド』(上・下)

コミケ発→フランス経由→日本着の異例の作品


「描きたいものを描きたい」。それが商業作品にならなくたって。

原作の佐伊村司(さいむら・つかさ)が、その画力に惚れ込んでいた高橋構造(たかはし・こうぞう)の作画で4年越しに完成させた同人誌『クルエラー ザン デッド』。

コミケで販売していたところ、たまたま通りがかった外国人に「お兄さん、読んでみてよ〜」と冷やかしに声をかけたら、その薄い本の一冊を買ってくれた。

なんと、このお兄さんはフランスの集英社ともいえるグレナ社の編集者で、新しい作品を求めてコミケ詣に来ていたのだ。

そして、あっという間に「ウチで出版させて欲しい」とラブコール。

さすがゾンビは世界の共通言語! でも、それだけでは海は越えられない。引き込まれる物語と迫力ある作画がフランス人をもKOしたのは言うまでもない。それが逆輸入で単行本化、日本文芸社より発売された。


『亜人』を超えるハンパない推し

私は仕事上、毎年パリで開催されている「JAPAN Expo」に行くことがある。「JAPAN Expo」とは日本でも有名なフランス(とヨーロッパ)のオタクが集結する海外最大のコミケのようなもの。

そこでビビった。グレナ社のブースで『クルエラー ザン デッド』が一推しになっている。『亜人』や『アルスラーン戦記』を差し置いて!

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ドヤッ!

さらにパリで一番マンガを取り扱っている大型書店に行ってみたら、面陳どころか、ピンでのスタンド陳列。こんな陳列、日本で見たことないってばよ!

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溢れるゾンビ愛が止まらない

この作品の強みはなんといっても「同人誌」だったことだ。編集部に口を挟まれることなく、読者アンケートを気にせず、ページ数に制限もなく、雑誌ペースの締め切りに追われることもなく、純粋に佐伊村・高橋コンビは「俺たちのゾンビ」を描いている。

そのため、ストーリーは丁寧に運ばれ、作画は大胆なコマ割りと精緻な描き込みがされている。商業誌だと、こういう作品はまず作れないだろう。

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(C)佐伊村司・高橋構造 / 日本文芸社


主人公の女子大生・マキは群馬にある製薬会社の研究施設で目を覚ますと、外界がゾンビだらけになっていることを知る。荒廃し、無人に思えたその施設で将太という少年と出会い、行動をともにする。


マキと将太は元ゾンビで、開発された対ゾンビワクチン接種で人間に戻れた稀少な実験体であった。救出に来た自衛官が全滅するなか、託されたワクチンとデータ、そして武器を携えてゾンビサバイバーであるマキと将太は、生き残った人間の難民キャンプである東京ドームに向かう。


ざっくりと冒頭を紹介してみた。ゾンビものの定番じゃん、と侮ってはいけない。まず、設定が細かい。群馬から大宮、川口、東京文京区、と玄人好みの渋いロードムービー感。車が使えなくなったらママチャリで逃走するリアリティ。生き延びた人間たちの緊張したパワーバランス。こんなアポカリプスであっても生じる格差社会。これらがカオスのごとく渦巻く世界を描ききっている。


そして、この作品の最大の魅力ともいえるのが作画の素晴らしさ。猛烈に絵が上手いのだ。車やヘリコプターなどの乗り物、建物、キャラ、銃火器と、どこかに油断があってもいいはずなのに、すべて完璧。言うまでもなくゾンビはことごとく、ゾンビ的超イケメン揃い。つまり、ソンビ的に正しい。要するに、デッサンの狂いなく、爛れて腐った醜さがじつに美しい。マジ、ぬり絵したい。

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(C)佐伊村司・高橋構造 / 日本文芸社

主人公はマキだが、紙面における表面積と線描数はゾンビのほうが遥かに上回っている。本物のゾンビ作品とはこうあるべき、と言えるであろう。ゾンビのクオリティと物量は、ゾンビファンのみならずとも、同人誌が先んじて海外で評価された例として、マンガ好きなら一読の価値があるとオススメする。展開が早いので上下巻一気読みがよろしかろう。きっとあなたもゾンビぬり絵がしたくなるはずだ。

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(C)佐伊村司・高橋構造 / 日本文芸社

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(C)佐伊村司・高橋構造 / 日本文芸社

こんなに贅沢に紙面を使った作品はそうそうお目にかかれない。

プロの本気は無双なのだ。



※本記事は「マンガ新聞」2018年6月28日の再掲載です。

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