シェア
西野キズナ / Nishino Kizuna
2023年7月3日 23:39
――胡同(フートン)に白兎が出る。 まことしやかに囁かれるようになって、一か月。 得体のしれない『白兎(ホワイト・ラビット)』に迎えられ、行方をくらましたとみられる人間は数知れず。 ある日、青白い貌(かお)をした朋友も、周囲の様子をうかがいながら私の耳元に口を寄せ、言った。「気をつけなよ、亜梨子(ありす)。 どんなに愛らしい姿をしていたとしても。 白兎についていったら、……終いだよ
2022年11月9日 03:04
まるで、青の絵筆で塗りつぶしたような空だ。 中天に浮かぶ太陽にうすらと雲がかかっている他は、はるか高く澄みわたっている。 時刻は、昼をまわったところで。 はばたき飛ぶ鳥のシルエットが、黄色の大地――地平まで続く砂漠地帯を、すべるように横切っていった。 その影を追うように錆交じりのオフロードバイクを走らせていたのは、ベージュ色の髪を風になびかせていた旅人――緑茶だった。 丈の短いタンクト