物書堂辞書を使いつくす 2.5 辞書と検索モード重点紹介
はい、ちょっと番外編です。
前回は「辞書 by 物書堂」の検索モードについて何やかや説明しました。
「成句/慣用句モード」や「用例モード」は名を体を表しており、使い始めるのに抵抗はないはず。
ところがそれ以外の、辞書ごとの特殊なモードはいまいち捉えどころがなく、始めにくさもあるだろうなと想像します。
安くない辞書コンテンツを購入して、機能を使いつくさなければもったいない。かと言って、検索モードを味わうためのとっかかりは難しい……。
で、企画を考えました。
おすすめ〝辞書×検索モード〟3選!
何これ。
いや、これはですね、前回深入りしないと述べたはずの「辞書ごとの検索モード」に分け入ろうって企画です。前代未聞感がすごい。
物書堂辞書のパワーユーザーである(と僭称して差し支えありますまい)私が実際にアプリを使い込む中で、「この検索モードは使いでがある」「物書堂ユーザなら触ってみてほしい」と感じた辞書と検索モードの楽しい組み合わせ。それを3つ厳選し、紹介させていただきます。
ぜひご家庭でもお試しください。
1️⃣ 🔎 古語を逆引きする「語義検索モード」
語義モードは、ことばを逆引きで探せる、うれしい楽しい検索モード。語末から引くのを「逆引き検索」と呼びますが、語釈から項目を引くのもまた、「逆引き検索」です。古語カテゴリで使えます。
🤔「語義モード」と「見出モード」
さっそく「見る」を見出モードと語義モードとで検索して、結果を並べてみます。(この動詞はたまたま文語形と口語形が同じで、わかりやすく比較できます。)
見慣れた見出モードに対し、右の語義モードでは、語釈の中に検索ワードが入っていればヒットします。
したがって、「よく見る」→「明らむ」、「めんどうを見る対象」→「扱ひ種」、「めんどうを見る」→「扱ふ」、などがリストアップされています。これが語義検索ということです。
🤔「逆引き」?
古語辞書はご承知のように、見出し語が古い日本語の語形で、意味の説明は現代の日本語で書かれる、という構成。
ですから、通常の見出モードにおいては、古い日本語をインプット→現代の日本語をアウトプットという流れの検索になります。紙で引くのと同じですね。
しかし、語義モードで逆引き検索すると、現代の日本語→古い日本語という形になります。インプット・アウトプットの流れが逆転します。
要は、語義検索があれば、現代語を古語辞書の力で言い換えて、古典の語彙力を強められてしまうという話です。語彙力バフですよ。
古代を舞台にしたファンタジー小説の創作や、詩歌の作詞などでふさわしい語彙を探すのなんかにも効果を発揮しそうです。デジタルの恩恵であり、紙だと(専用の辞書でない限り)できない芸当です。
🧐 語義モードをもっと試す
先ほどは「見る」で逆引きしてみました。今度は、「恐ろしい」という感情に関わる古語には何があるか、語義モードで逆引きしてみましょう。
接頭辞「悪-」、連語「あなかしこ」、ク活用形容詞「厳し」……たくさんの類義語や関連語がヒットしています。類語辞書などより勝る部分もあるように思われます。
語義モードを使うためのインスピレーションになりそうな例をもう少し。
「身分」で検索。
趣のある「死ぬ」の表現の数々。
帝や神様に関する表現を探す。
夜の月あるいは月夜に関する表現。
テンション上がりませんか? 語義検索超助かる。
古語カテゴリでの語義検索、ぜひやってみてください。
えっ、お持ちでない? さあ~、買ったらいいんじゃないでしょうか。
🧐 他カテゴリの「語義モード」
なお、語義モードは漢和/漢字カテゴリでも使えます(〈漢辞海〉〈新字源〉のみ)。
さっき見た「恐ろしい」「身分」での検索結果は次のようになります。
参考まで。
2️⃣ 🔎 日本語としての漢字をたずねる「漢字検索モード」
国語カテゴリには漢字項目を検索する漢字モードの使える辞書があります。
漢字モードに対応する辞書のうちでも、〈岩波国語辞典〉〈大辞林〉〈大辞泉〉の漢字項目は字義解説があり、読む楽しみを提供してくれます。
🤔「漢字項目」?
漢字項目、そもそも存在をご存じでした?
国語辞書は原則として、一般的な項目(国語項目)でことばを解説します。それと異なり、漢字項目の説明対象は、熟語を作る働きのある文字です。項目リストで[漢]と見出し語の脇に出るやつがそうです。
漢字項目を一般項目と並べると、実は微妙に違うのです。〈大辞林〉で漢字項目〖文〗と一般項目【文】【文】を比較します。(【文】や【文】も俎上に載せるべきですが、割愛)
漢字項目のほうは一画面に語釈が収まっていませんが、上記〈大辞林〉で目につく違いとしては……
● 漢字項目は文字が主で、音「ブン・モン」が従。一般項目は音「ぶん」が主で、文字(漢字表記)が従。
● 漢字項目〖文〗の各字義がどの一般項目に属するかは分かれる。漢字項目の①は一般項目【文】【文】、②は【文】、③⑤は【文】【文】、④は【文】に当たる。
● 漢字項目は用例(例文)の代わりに熟語を多数掲げる。字義のそれぞれがどんな熟語で使われているかわかる。
こんなところでしょうか。同様の漢字項目が〈岩波国語辞典〉〈大辞泉〉でも引けます。
レイアウトは大幅に異なりますが、記述内容はまあまあ似ていると見て大丈夫そうです。
なかでも〈大辞泉〉は、学校での学習年次を先頭に、人名での読みや難読語を末尾に掲載するなど工夫しており、情報量が多い。熟語にリンクが張ってあるのも使いやすいですね。
🤔 漢字項目と漢和辞書
漢字項目とは、ある意味、国語辞書に漢和辞書の機能を持たせたものだとも言えます。
ただし、もともと漢和辞書は、中国語の古語、すなわち漢文を調べる機能の辞書でした。掲載する用例や熟語も当然、おもに漢籍から引かれます。
対して国語辞書の漢字項目は、漢字の日本語における意味・用法を主眼に置くのが国語辞書ならではのポイント。掲げられる熟語も日本に見られる漢語ばかり、という点が漢和辞書とは異なります。
🧐 漢字項目をよく見てみる
漢字項目の特徴を実見してみましょう。
適当に選んだ〖城〗〖調〗の意味記述を国語辞書と漢和辞書で比較します。参考用に〈中日辞典〉にも加わってもらいます。
国語辞書と漢和辞書はそれぞれ別のを選びました。
なるほど、国語と漢和を比べると、意味自体が異なるだけでなく、字義・語義の重なった部分でも切り分け方が違うようです。日本独自の用法は漢和辞書では最後に回されています。また、漢和辞書には「春望」「楚辞」など中国古典文学の引例が見えます。国語辞書には用例がありません。
画面に入りきっていない部分で、漢和辞書には熟語欄があります。〖玉〗の項目の熟語欄を見てみます。
限られた語数での比較ながら、漢字項目の熟語はまあまあ知っている語や使えそうな語が目立ちます(見たことのないのもありますが)。
漢和辞書の熟語「玉扆」「玉韻」「玉宇」……はいまの目から見ると非常に格調高い、ないし非常に古い(使われない)ものです。現代日本語でも言う語も掲載されていますが、主とは言いがたい。
🎯 「漢字モード」まとめ
大雑把にまとめれば、国語辞書の漢字項目は、漢字を見知った語彙と結びつけ、現代日本語話者の知る姿のままに説明しようと努めています。
漢字のことは漢和辞典に聞け、というのが常識、紋切り型でした。でも、漢字モードという窓を通じて、国語辞書の漢字項目も覗いてみる価値がありそうに思えてきませんか?
3️⃣ 🔎 アクセント辞書の粋「助数詞検索モード」
最後に、物書堂唯一のアクセント専門辞書、〈NHK日本語アクセント新辞典〉の助数詞項目を検索するための助数詞モードです。
🤔「助数詞項目」?
助数詞項目とは、「~つ」「~個」「~本」「~キロメートル」などの助数詞の読み方を説明するもの。書籍版でもアプリ版でも助数詞項目は付録の扱いですが、充実しています。〈NHKアク〉の内容を解説した記事では改訂の意気込みをこう記します。
さてさて、ところが、いかにも強キャラな助数詞項目、困ったことに助数詞モードでなければ検索画面からは検索できません。
せっかく〈NHKアク〉をインストールしていても、見出モードだけに留まっていては、加勢を受けそこねます。
🧐 助数詞モードを試す
とりあえず助数詞モードを使って、助数詞項目に何が書いてあるか覗いていきましょう。
最近、国語辞書の「8版」が相次いで刊行されました。これはNHKでは「はちはん」か、「はっぱん」か? ふつうの辞書では解決しがたい細かい疑問も〈NHKアク〉の助数詞モードで検索すればすぐわかる。
どちらでも良いみたいです。しかし、優先されるのは「はちはん」なんですね。私は「はっぱん」派なので意外。
えーと、きょうは9月の「24日」。「にじゅうよんにち」と言えるんでしょうが、あれ、「にじゅうよっか」ってNHKでは言うのか? 「よっか」単体は言うとしても。昨日の「23日」は流石に「にじゅうさんにち」だけとしても。
おや、日付の「24日」はNHKでは必ず「~よっか」だけらしい。再び少々意外な展開でした。ヤラセなしなので、図らずも私とNHKの言語感覚の違いが赤裸々に明かされていきます。
🎯 「助数詞モード」まとめ
〈NHKアク〉はもちろん「アクセント辞書」なのですが、そもそも読み方(読み仮名)を知らなければアクセントもままならない、というわけで読み方の情報が充実している辞書だとわかります。普通の国語辞書がカバーしていない、ちょっとした隙間を埋めてくれます。実は声優やナレーターならずとも、ルビを振る場合など〈NHKアク〉が重宝することがあるのです。
というわけで、助数詞に悩んだら助数詞モードへ。
次回こそは、語釈の画面での操作について。
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