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粒餡かこし餡か。それとも、


このあいだ会社の人が差し入れをくれた。
どこかの支社の偉いおっちゃんで、去年もこの時期にやってきた。
ぺーぺーのわたしからすると、ある一定を超えた偉い人はテレビに映る人と同じ感覚になる。
あー偉い人だ。
そんなこと考えると知ったら、上司は笑いながら形だけ咎めるに違いない。

偉いおっちゃんが差し出した蒸気でふやけた箱いっぱいに並んでいたのは、鯛焼きだった。
お行儀よく一列に整列する様が、なんだか滑稽で可愛らしい。


日持ちがしない手土産は珍しいな。

そう思ったけれど、
去年はアイスクリームやったので、
この人はそういう人なんやと思う。

嫌なわけじゃない。
むしろ嬉しい。


クッキーだったり、お煎餅だったり。
大抵の人の手土産は個包装されている。
お土産っていうのはそういうものだと思う。

だけれど、そういうのはその場では食べん。
なんでか持って帰ってしまう。
毎回持って帰って割ってしまうから、反省してへんことがよくわかる。
だから、綺麗なままで食べれる手土産は貴重で
ついニコニコしてしまう。


「3種類買ってきたから、好きなん選び」
偉いおっちゃんはそう言って、
箱に詰まった鯛焼きの説明を始めた。

右から粒餡、こし餡、
 カスタードにチョコレートーー

差し出された箱を前に、
わたしはここ1週間で1番悩んだ。
さっきまで向かっていた仕事よりも、
ずっとずっと真剣に悩んだ。
請求書の金額が合わない時よりも、
荷物の送り先を間違えてしまった時よりも
うんと真剣に悩んだなんて言ったら、さすがに上司に叱られてしまうかもしれないけれど、
それくらい重大な選択を強いられている。

粒餡か。
こし餡か。


誰しも1度は議論する論争であると思う。
わたしの体感的に、粒餡がやや優勢。
こし餡派は過激派が多い印象。

ちなみに、
わたしはどちらとも甲乙つけ難く好きだ。
そんなこと言うてしまうと、両派閥に怒られてしまいそうだけれど
どちらにも魅力があるから仕方がないと思う。

おはぎは大粒の小豆がいい。
だけど、赤福の滑らかな舌触りも捨てがたい。
団子は絶対こし餡が良いけれど
御座候は餡子界でトップを張る逸材だと思う。

ちなみに、あんバタートーストならば絶対に粒餡が良い。それだけは譲れないかもしれない。

鯛焼きならどっちだろう。
粒餡な気がする。
だけれど、こし餡を捨てる理由にはならない。


よくよく考えてみると、
最後に鯛焼きを食べた記憶がすごく遠い。
友達とクレープ食べて帰ろうと言うことはあっても、鯛焼き食べて帰ろうは言わん。

そもそも鯛焼き屋が身近にない。
鯛焼き屋言うたら、日曜大工野良用品が売っとる大きなホームセンターの駐車場にある小さな小屋みたいなお店でたこ焼きと一緒に並んでるイメージだ。
小さい時は家族でよく行った。
工具ばかりが並ぶ店内はつまらなくて、
早く帰りたいといつも不貞腐れていた。
だけれど、とっておきの楽しみが待っているから
懲りずについてゆく。
まだ、餡子が好きだと感じれなかった子ども時代。
鯛焼きをお腹から齧って
口の周りを大惨事にしていたあの頃が懐かしい。



もう一度、箱に整列した鯛焼きを眺める。
右から
粒餡、こし餡、チョコレート……

わたしは覚悟を決めて手を伸ばす。
「チョコレートをいただきます」
触れた指先が温かい。
買いたてほやほやの鯛焼きさんだとわかる。
柔らかすぎない生地、だけれどお腹がてっぷりと柔らかく身が詰まっている。
我慢できずに頭から齧り付いた。

餡子が好きだ。
だけれど、たい焼きはチョコレート派だった。
もう、お腹から齧るなんてことはしないけれど
はみ出てくる少しチープなチョコレートのカスタードクリームが愛おしい。





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