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まあるい靴しか履きたくない

優しい雰囲気の子に憧れている。
ほんわかとした、アイボリーのカーディガンが似合うような
見ているだけでほんわりとする雰囲気を持った女の子に、わたしはいつも憧れている。

わたしは陽気だと称されることが多い。
元恋人に「ちょっと静かにできないの」と言われたことを根に持ちつつ
確かにわたしはおしゃべりが過ぎる、と実感するくらいにはおしゃべりだ。

わたしが憧れるほんわかとした女の子たちは、
みなゆっくり話すし、声も大きくない。
木琴のような声だ。まあるくて穏やか。
それに対して、わたしはきっと鉄琴のような声だ。
少し高くて耳につく。
わたしは鉄琴の音も好きだけれど、まあるい音ではないと思う。

まあるい女の子になりたかった。
守ってあげたくなるような女の子。
あいにくわたしは、一人で生きていけそうな女だ。
しっかりはしていないけれど、守ってあげたくはならないと思う。

割としっかりとした骨格。
大きな声のおしゃべり好き。
典型的な関西の女だ。

世の関西人を敵に回すようなことを言ってしまうと、
関西弁とまあるいは両立しないんじゃないかと思う。
関西弁は鋭角すぎる。

「あかんわ!!」
「ほんまに?」
「え、オチは?」

そろいもそろって、まるくない。
たぶん、まあるい女の子は話にオチを求めてこない。

知っているけれど、そうそう関西弁を切り離すには
たぶん、もうこの土地から出ていくしかないんじゃないかと思う。
しみチョコよりも、しみ込みすぎた特性だと思う。

だから、わたしは靴だけは
まあるく生きていこうと思っている。

まあるい靴しか履きたくないの

履いていたパンプスのつま先が悲鳴を上げていた。
まだ数か月しか履いていないのに、早すぎやしないか。
この靴も、その前の靴も
わたしが履く靴は大体つま先が破れることで、お別れとなる。

靴が破れていることに気が付いてから、
わたしはずっとつま先を見ながら生活をした。
靴下が「こんにちは」していないか、気になって仕方がない。
さらにその靴下が破れていないかどうか、トイレに行くたびに確認をした。
靴も靴下も破れている女は、さすがに社会人としてダメだろう。

靴屋に行くのは面倒だけれど、明日も靴下に怯えながら生きていくのは嫌なので、定時で退社してショッピングモールへ足を運んだ。

19時を過ぎた平日のショッピングモールだというのに、店内は割とにぎわっていた。
一直線に決めていたお店へと向かう。
隣の店よりも少し照明が明るい気がするキラキラの店内。
靴がメインとしているけど、ときどきバックも売っているお店で
先日、ここでカバンを買った。
薄いベージュのハンドバックで、小さいけれど文庫本が入って気に入っている。

価格帯も1万円前後と優しく、次はここで靴を買おうと決めていた。
思っていたよりもはやく、パンプスの寿命が尽きてしまったけれど。

それっぽい靴を探しはじめて、いくつか候補を絞っていく。
だけれど、いまいちピンとこない。
これだ!!ていう一足に出会うことは、そう多くないので仕方がない。

あれでもない、これでもない。と吟味していると、
運命の一足が目に入った。

靴先のまあるい、リボンのついたフラットシューズ。

これしかない、と思った。
憧れのまあるい女の子が履いていそうな靴だと思った。
光沢感のない素材で、靴先はまあるい。
小さく添えられたリボンは控えめだけれど、確かな存在感を持っている。

試着させてもらって、サイズがぴったり合うことを確認した。
普段、好んで来ている襟に装飾があるブラウスと合わせたら
可愛いだろうなと思いながら、
店員のお姉さんに購入の意思を伝えた。


あの日買った運命のまあるい靴は、
歴代の靴と同じように数か月で足先から破れてしまった。
たぶん前のめりで歩くのが原因なんだと思う。

破れてすぐ、わたしはまあるい靴を探した。
前に買った靴屋さんではもう取り扱いがなく、
たくさんのお店を渡り歩いた。
光沢感のないまあるいフラットシューズは意外とは出会えない。
ようやく見つけたのはお洋服屋さんの一角で、
わたしは二足まとめ買いをした。
(本当は3足買いたかったけれど、それは友人に止められた)

もう、まあるい靴しか履きたくない。
だって、まあるい靴を履いているとき
わたしはすこしだけ理想の女の子になれている気がする。

少し鋭角すぎる関西弁の女で、ちょっとせっかちだけれど
靴がまあるいだけで
やわらかい女の子になっていると思える。

靴はきっと
「ちょっと荷が重すぎます!!」と叫んでいるに違いない。

だけれど、
あなたと少しでも長くいるために、前のめりで歩く癖を辞めようと思っている。
真っすぐゆっくり歩けるようになったなら、
また少しだけやわらかい女の子に近づける気がするから。


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