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インハウスとクライアントワークの境界を横断するデザイナー達から見えるキャリア像

こんにちは。root inc.代表の西村です。
久しぶりに参加者としてデザインイベントへ参加したので振り返りも兼ねて感想を書いてみました。

今回参加したイベントがこちら。

普段クライアントワークの立場から関わり、デザイナーの育成もしているので、インハウスの視点で仕事やキャリアについて知見を得たいと思い参加しました。

登壇者は、株式会社ユーザベース(SPEEDA事業) デザイナー兼、株式会社デスケル リサーチャーの平野 友規さん。株式会社DONGURI CEOのミナベ トモミさん。株式会社プレイド デザイナー兼、Standard Inc. Founder, Designerの鈴木 健一さん。モデレーターは株式会社アトラエ デザイナーの竹田 哲也さんが務めました。

平野さん:インハウスとクライアントワークの景色

平野さんは、ご自身でデザイン会社を運営されながらSPEEDAにインハウスデザイナーとして関わるダブルワーカー。過去の経歴を見ると、デンマークのDesign school KoldingのLab for social designで客員研究員を務めたり、キャリアの途中で東京藝術大学大学院での勉強期間を挟むなど、デザイナーのキャリアモデルとして、とても参考になる経験を詰まれている方でした。

お話の中で一番印象的だったのがインハウスとクライアントワークの間に存在する「意思決定の壁」の話。

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クライアントワークの場合、外部からパートナーとして関わる以上、意思決定は中の人に行ってもらう必要があります。そのため、クライアントワークを軸にデザイナーとしての経験を積むと、「どう意思決定をしてもらえるか」を起点に提案やアウトプットをする習慣が身につきます。

一方、インハウス側の立場でデザインを担う場合、立場が逆転し自身が意思決定を行う側になるため、「決めること」が仕事になります。ここが、クライアントワークをずっとしてきた人にとっては「落とし穴」になると平野さん。彼自身、「で、平野さんはどう思うの? どうしたいの?」とよく問われたそうです。

外から事業に関わると意思決定という外部からは超えられない壁があり、その壁を超えてでもその事業やデザインに責任を持ちたいと思える場合はインハウスでデザイナーの選択肢も考えられます。

ただ、立場を意識しすぎる必要はなく、インハウスとクライアントワークそれぞれの立場で関わることの強みやメリットが理解できると、自分の特性と合わせたアプローチがしやすく成果を出しやすいでしょう。

そのため、インハウス未経験者は経験の一つとしてチャレンジしておくと見える視野が大きく広がる可能性がありそうです。

ポイント
- 海外留学の投資(300〜400万円)はペイできる
- 意思決定をする立場か促す立場かでデザインのアプローチが異なってくる
- クライアントワークとインハウス両方の視点を持っていると自分の強みを活かしやすくなる

ミナベさん:組織デザイナーから見る景色

家電メーカーのPdMから、組織コンサルへと職種を変えたミナベさん。
トークテーマは「組織デザイン」。

お話を聞くまで、組織デザインはデザイナーが行うべき仕事なのかと疑問に思っていました。

しかし、事業会社の視点で見ると、事業部制の組織が多く、個の成果だけでなくチーム資産形成の観点が求められるため、デザイナーが組織づくりを担う必要性は一定存在すると理解しました。

また、人の増加と共にコミュニケーションパスが増えていくことで、組織を構造化しておかないと情報の偏りが生まれ、社内の透明性がなくなっていく点は納得感がありました。当たり前のように見えますが、ベンチャーだとあるあるで、人が増えることで組織内の情報伝達に偏りが生じて問題が発生しているケースはよく見かけます。

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僕自身が経営をする立場にいるので、話された内容は非常に納得感のあるものが多かったです。
今後キャリアとしてマネジメントも視野に入れている人は知っておくべき情報が適切かつ具体的に述べられているのでスライドの一読をおすすめします。

スライドでは、組織形態別のキャリアの適正も整理されており、自分の適性をこの表を参考に具体化していくと、次の環境を明確に定めることができると感じました。

ポイント
- 組織の課題は構造と文化。構造の課題を解決するのが組織デザイン
- 人が増えることでコミュニケーションパスは掛け算で増え続ける
- 組織構造の特徴を見極めることでデザイナーとして得られる経験値を見極められる

鈴木さん:視座と対象から紐解くデザインキャリア

デザイン会社を運営しつつ、事業会社でも働く鈴木さんは、これまでのキャリアを振り返り、視座(インハウス/クライアントワーク)と対象(マーケ/プロダクト/組織)を軸にマトリクス化することで、自分の強みや特徴を構造化する方法を紹介されていました。

一番納得感があったのは、会社単位での経験を可視化するのではなく、同一会社の中でもマーケティングデザインやプロダクトデザインなど担当したプロジェクトベースで経験値をマッピングしスコア化している点。インハウスかクライアントワークかという対比軸ではなく、それぞれの中でもプロジェクト単位では経験値を積める部分があることが示されており、必ずしも環境依存でキャリアが制限されるわけでわけではないことを示していると理解しました。

とはいえ、事業会社で働くようになってから、環境によってデザイナーに求められる役割は異なると感じたそう。事業会社では、誰かが率先してやらないと解決できない課題がたくさん転がっており、そこをうまく汲み取りながら職域も横断して事業に貢献するアプローチをデザインで実現していくことが求められるようです。

実際に鈴木さんもマネージャー業と並行して、顕在化しているが誰も手をつけらていないデザイン周りの課題解決に当たっているそう。 組織や事業の成長のためにはこういった役割を担う人が必要というのは納得感がありました。

ポイント
- 自分の特性をマトリクスで可視化すると強みや特性が導き出しやすい
- 必ずしもインハウス、クライアントワークという視点で分けて環境を選ぶ必要はない
- 事業会社では自分の領域を制限せず落ちている課題を広いにいける人の方が適正がある

鈴木さんが当日発表された内容を細かく記事にまとめてくださっています。参加されていない方でも内容が理解できる内容なのでぜひご覧ください。

パネルディスカッションを通じて

後半では、toB SaaSの事業にコミットするデザイナーの数が少なすぎる問題が取り上げられました。露出機会なども含めtoCサービスの方が認知度も高く、デザイナーが集まりやすいことも実態としてあるようです。

しかし、事業課題を考えるとtoBのビジネスはステークホルダーも多く課題の難易度がtoCよりも高いのが事実であり、経験値を積む観点ではtoB SaaSでの経験は個人の成長を考えると貴重なものであると感じました。

全体通じての振り返りと感想

今回のイベントに参加して、デザイナーのキャリアでは、インハウスとクライアントワーク両方を経験していく方が将来の選択肢の幅が広がり、メリットが大きいと感じました。

各登壇者のスライドを見ていただくとわかりますが、環境やスキル軸での特徴が明確に整理されています。次のキャリアを考えている人は、「なんとなくここが合ってそう」と考えるのではなく、自分自身の特性とスキルを具体化し、特性を構造化することをおすすめします。その上で適正を見極めたり将来目指すべきステップを考えながら進む道を選んだ方が後悔は少ないと思いました。

「視座と対象のマトリクスには深さがある」と鈴木さんがおっしゃっていましたが、ここには時間軸が紐付いてくるのかなと考えています。 マトリクスは平面ではなく3次元で捉えた方がより深さを俯瞰して捉えることができるのではないかと思います。

参考までですが自社の事例を出すと、rootではキャリアモデルを下記のような図で捉えています。

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このモデルに則ると、例えばプロダクトを中心としたスキルセットを持っているデザイナーであれば、組織化や分業化の進んだチームで経験するプロダクト開発のスキルと、グロースフェーズで経験するプロダクト開発のスキルは異なるものがありフェーズを横断した経験を積むことで、活躍の幅を広げることができます。

キャリアアップの上で重要なのは、転職やポジション変更のタイミングがその時間軸を遡ったり飛び越える機会であるか否かを見極めること。市場環境を考えても、事業フェーズに合わせたデザインをできる方が、雇用する側からも重宝されるのではないでしょうか。

最後に、個人的な視点を付け加えると、理論的に置かれている立場や自身の特性を整理することも大事ですが、自分自身がデザインをしていて何に喜びを感じるのかを具体的に知ることも必要だと感じます。

結局人は自分の好きなものや関心の強いものへ吸い寄せられる生き物です。 そこを合理的な側面と感情的な側面両方で定めることで、自信を持ってデザイナーとしてのキャリアを歩むことができます。 市場や今後求められるであろうスキルを理由に環境を変えても、自分自信の納得感や自信は得られないものです。

自分の特性が気になる方は、過去のポートフォリオを鈴木さんのマトリクスで振り返りながらどんな時にワクワクを感じたかを整理してみると特徴を掴みやすいのではないでしょうか。

長々と書いてしまいましたが、今回のイベントは非常に多くの学びがあり自分自身の考えもアップデートされる貴重な機会となりました。登壇者のみなさま貴重な機会をありがとうございました。

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