見出し画像

10月23日発売/伝記絵本『アンデルセンの夢の旅』訳者・天沼春樹先生インタビュー

画像1

アンデルセンの夢の旅』●ハインツ・ヤーニッシュ 文 マーヤ・カステリック 絵 天沼春樹 訳 ●2020年10月発売 ●ISBN:978-4-86706-015-5

デンマークの童話作家・詩人 ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805年-1875年)。"童話の王さま”とよばれるアンデルセンの人生の物語に、「雪の女王」や「みにくいアヒルの子」、「おやゆび姫」、「人魚姫」、「はだかの王さま」といった数々の有名なメルヘンが幻想的に織り込まれている美しい伝記絵本『アンデルセンの夢の旅が2020年10月、発売されます。本書を翻訳いただいた天沼春樹さん(作家・翻訳家・ドイツ文学者)にインタビューしました。〈聞き手:西村書店編集部〉

★アンデルセンって、どんな人・・・?

note用『アンデルセンの夢の旅』解説ページ_肖像画

(西村書店編集部/以下同)本書『アンデルセンの夢の旅』は、旅の馬車に乗り合わせた少女エルサから「お話」をせがまれ、アンデルセンが自らの人生を振り返って語る物語に、珠玉のメルヘンが織り込まれていくストーリーになっています。本書を訳し終えられて、どのようなご感想をお持ちでしょうか?

(天沼さん) デンマークのオーデンセで生まれたアンデルセンは、14歳で故郷を離れ、コペンハーゲンで働きはじめました。以来、生涯を通じて、国内外へたくさんの旅行に出かけています。この絵本のように、旅の馬車のなかでもどこでも、初対面の相手にも話しはじめることも多かったようですよ。

ーアンデルセンは、まわりの人たちとどんなお話をして楽しんだのでしょうね・・・?

(天沼さん) 夢のようなお話をするのが大好きだったようです。のちの自伝でも、「わたしの人生は一篇のメルヘンのようだった」と書き記しているほどですから・・・。乗り合わせた馬車で、自分の人生の物語を語って聞かせたこともあったでしょう。そのお相手は、大人たちよりも、きっと子どもさんたちがぴったりであったように思えます。

また、自作の詩やお話を人々の前で朗読するのが大好きだったとも言われています。宴会の席に遅れてとびこんできて、「諸君、あたらしい詩ができたから聞いてください!」と、空気もよまずに朗読しはじめちゃうクセもあったとか。今から考えると贅沢なエピソードですね!

ーいつも頭の中に物語や詩があふれていたのですね。

note用『アンデルセンの夢の旅』馬車の中のエルサとアンデルセン

★”今だから”オススメのアンデルセン童話

ーアンデルセンの童話は、ぜんぶで150作以上あるそうですが、そのなかで、特に”今だから”読まれてほしいと思う作品はありますか?

(天沼さん)今だから特にオススメしたいのは、「空とぶトランク」と「雪の女王」ですね。

ー「空とぶトランク」は、本書で取り上げられている作品のひとつです。

(天沼さん)彼の人生そのもののように、アンデルセン童話には旅のお話が多いのですが、なかでも「空とぶトランク」は、まさに魔法のトランクにお話をつめこんで、遠い国にとんでいく…という物語です。なんだか閉塞状態にある現代の人たちに、こんな空想の旅を楽しんでもらえたらと思います。

ー「雪の女王」のほうは、アンデルセンを原作としたアニメ映画が主題歌とともに大ヒットして、さらに有名になりました。

(天沼さん)もともとのアンデルセン童話では、友だちのカイを雪の女王から救うため長い旅をするゲルダに、途中でたくさんの女性たちが力をかしてくれるという、心あたたまるお話でもあるんです。ゲルダひとりではとても北のはての氷のお城にたどりつけなかったでしょう。アンデルセン自身も、故郷をとびだしてからずっと、たくさんの人たちの助けをかりて成長したのです。そういう経験がお話のなかに生きているのですね。

『アンデルセンの夢の旅』空とぶトランクと雪の女王

★国際アンデルセン賞受賞画家 ドュシャン・カーライ夫妻(スロバキア)を訪問

ー天沼さんは、小社の『グリム童話全集 子どもと家庭のむかし話』(橋本孝さんとの共訳)や『アンデルセン童話全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』も翻訳されています。そのグリムとアンデルセンをつなぐ貴重な思い出がおありと聞きました。

(天沼さん)グリム童話のシンポジウムの帰途、ブラチスラバのカーライさんのお宅を訪問したときのことが忘れられません。

画家の出久根育さん、くまあやこさんとご一緒でした。東京で一度お会いして以来でしたが、カーライさんはドイツ語もおわかりになるので、画家のふたりの質問なども通訳できましたね。でも、そのときは、まさかカーライさんが『アンデルセン童話全集』に絵をつけて、その本をまた私が翻訳することになるとは夢にも思いませんでした。カーライさんが描いたどの絵にも、これまでの挿画になかったような浮遊感や楽しさがあふれています。しかもアート感覚も。アンデルセンの作品とともに挿画がさらに空想を膨らませてくれるのです。

アンデルセンセット_書影

▲『カラー完訳 アンデルセン童話全集』(全3巻/ドゥシャン・カーライ/カミラ・シュタンツロヴァー 絵 天沼春樹 訳)。国際アンデルセン賞受賞画家のドゥシャン・カーライ夫妻が、アンデルセン童話156編すべてに挿絵を描いた渾身のシリーズ。
ー”グリム”と”アンデルセン”、カーライさんによって天沼さんに結び合わされたような印象深いエピソードですね! 今日はお話をありがとうございました。


天沼先生_あやつり人形コラージュ

天沼さん・・・「これは、プラハで購入した紳士の操り人形です。山高帽や風貌から、”アンデルセン君”と勝手によんでデスクのまえにぶらさげてます」 (*写真も天沼さんの撮影)

天沼春樹(あまぬま はるき)
●プロフィール●
1953 年、埼玉県川越市生まれ。作家・翻訳家・ドイツ文学者。『グリム童話全集』、『アンデルセン童話全集』(全3巻)の翻訳をはじめ、著書として小説『くらやみざか』(いずれも西村書店)をはじめ、幻想小説でも独自の世界を描く。飛行船の研究家としての著作も多数。