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MIMIGURIの新卒リサーチャーが特に乗り越えたい葛藤

研究の仕事といえば、修士卒業後のキャリアは博士課程への進学がイメージされるが、他方で民間企業での研究開発職(R&D職)というキャリアも存在する。「民間企業で研究開発の仕事をしたい」。そう考えはじめたのは、学部時代に約一年半、埼玉県にある通信企業の研究所でインターンシップをした時からだった。企業の実際のサービス開発やプロダクト開発に限りなく近い場所で行われる研究に大きな魅力を感じていた。

憧れはそのまま、学部卒業後は大学院に進学した。コロナ禍の修士時代は殆どの活動がオンラインで寂しさはあったが、研究に熱中できる環境だったという点では良い時期でもあったと思う。ただ修士二年となり、就活を迎えたが、新卒採用が開いている文系の研究職は中々見当たらなかった。

一旦総合職就活を経て、広告代理店への内定を頂いたものの、まだまだ未練が残ったままであった。そうした中で修士論文提出前のM2の12月にオファーをいただき、人と組織の経営コンサルティングファームである株式会社MIMIGURIにリサーチャーとして入社することとなった。

MIMIGURIの合併後初の新卒入社。かつて通信企業時代に研究指導をして頂いた方からは「学生から社会人へ、アカデミアからインダストリへという二つの越境ですね」と喜んでいただいた。

入社から早いもので二年が経過し、三年目を迎えた。入社時に比べてMIMIGURI内における研究組織の体制も整いつつある。しかし私個人に限っていうと、この二年は学習すべきことが多く存在し、自らを環境に適応させるために様々な葛藤があった。特に院生時代の研究と、企業で求められる研究には、考え方のギャップ存在することがわかり、ここでは字幅を許さないような様々なモヤモヤを抱えながら過ごしている。

そこで今回は、修士課程修了後に民間企業のリサーチャーに就職したことで抱いた、私が特に乗り越えたいと考えている個人的な葛藤をエッセイとして記述してみたい。

葛藤には民間企業という環境由来のものや、恐らく研究を業務とすることで生じるものなど様々なものが入り混じっている。いずれも自分自身が「生きることが下手」なことに由来するものといえるが、不器用だからこそ得られた気づきを内省し、言語化できている。数年後にこの記事を読み直し、「そんなことで悩んでいたんだ」と笑えるようになりたい。

[註]なおこれらの葛藤は、あくまで筆者の経験の範囲における、属人的なエピソードであることはご承知ください。

他職能人材の巻き込み方への葛藤

民間企業における研究開発は、実用化や事業活用も視座に入るためにリサーチャー以外も研究プロジェクトに参画することがある。MIMIGURIの場合はコンサルタント、ファシリテーター、デザイナー・・様々な人材を巻き込みながらプロジェクトを進められる点は魅力的だ。

しかし、他の職能者が研究活動に能動的に参加したとしても、アウトプットとしての「論文」に協力的であるとは限らない。入社時は「論文」などの研究成果を優先するべきか、それとも成果を諦めて組織に合わせるべきかという背反する考えの間で葛藤していた。

個人的な感覚ではあるが、「論文化すること」ことをゴールに押し出すと、チームの求心力が一気に低下してしまうようにも感じていた。「よくわからないので西村さんお願いします」モードになるのだ。その求心力が落ちてしまう状態になってしまうことが、とても「寂しい」と思い始めた。コロナ時代に修士時代を過ごし、つながりがある状態での研究が出来なかった自分には、その「寂しさ」は堪えるものがあった。

「寂しさ」を克服する為に何が必要かを考えてみた。それまでの自分は、とにかく論文や学会発表といった研究成果を生み出すことを重視してきた。でも職能や組織内立場によって何を欲するのかの価値観は違うし、なぜこの研究プロジェクトに関与しているかの理由も異なる。自分自身の「こうしたい(例えば論文に仕上げたい)」を優先するのでもなく、かといって折れるでもなく、各職能同士で目線合わせを行いながら、共通ゴールを見出す必要があることを知った。

現在の自分の課題は「考え方や求めることが異なる他職能人材を巻き込みながら、協働的に研究プロジェクトをマネジメントする力」を得ることである。

そのために最近は「研究意義」の考え方を変えることから意識している。一般的に論文を執筆する場合は、①学術的貢献を設定することは大前提であり、デザインや経営などの実学的領域では②実践的貢献を設定することが多い。それに加えて、論文には記載するかしないかは別として③組織的貢献(俗にいう組織のレバレッジ)を考え、それらの3つの貢献がすべて満たされるように、メンバー間で目線合わせを行い、リサーチデザインを行い始めた。

[註]この3つの価値のどれが優先度が高いのかでいうと、自分としては研究活動である以上、①学術的貢献や②実践的貢献にはこだわりたいと考えています。しかし自社で研究するという特性上、③組織的貢献は大事になってきます。両立のバランスが本当に難しい。

この③「組織的貢献」を満たすために、普段より組織内の状況をつぶさに観察し、他職能者の目線で研究プロジェクトに何を期待しているのか理解したり、経営層などの上位レイヤーの議論もキャッチする必要がある。最初はどうすれば良いかわからず、モヤモヤが募るばかりだったが、最近は「三枚抜き」をする感覚を徐々に掴みかけている。

最初はこの3つはトレードオフだと思っていたが、色々試行錯誤する中で「三枚抜き」できるバランスが少しずつ分かってきた。

PMの方法論を模索するなかでの葛藤

また、多職能のメンバーで研究プロジェクトを進行する上では、いわゆるPM(プロジェクトマネジメント)の能力が求められる。

つまり一人の人間が「自分が責任をもって頑張ればいい」という状態ではなく「協働する」状態を作りだすことが要求される。そのためには目的設定はもちろん、細やかな進行管理(カレンダーデザインなど)、定期的なミーティング運営なども行う必要が生まれる。

しかし入社当時の自分は、メンバーが語る「プロジェクトマネジメント」とはどういうことか理解しきれていなかった。卓越したPM力を持つと呼ばれている同僚にどうやって身に着けているのか話を聞いても、0から学ぶためのアドバイスは中々難しそうであった。そこで社内で「みなさんのPMとは何かを教えてください」という趣旨のアンケートを募り、PMの暗黙知を解き明かす試みをしながら、自分の学習の切り口を探ってみた。

MIMIGURIのPM観に関するアンケート。16人から解答いただいたものを並べてみたもの。このアンケート結果をみんなで眺めて、「私たちにとってのPMとは」を考える場も作ったりもした。
暗黙知だった「MIMIGURIにおけるPM」を言語化して社内共有し、自分の学習機会にもした(かなりこのアンケートをやったことで自分の考え方が変わった感じがする)

新たに学習することも多い。例えば多くのメンバーが入り混じるプロジェクトでは、より細かくタスクを切ったほうがマネジメントしやすいという声があり、週や日ごとにタスクの進捗状況を報告しあう場があることがチームに安心をもたらすことが分かってきた。院生時代の進捗報告といえば、隔月などで回ってくるゼミでの1時間にも渡る発表が一般的だが、ここまで定期的に、細やかに進捗をレポーティングすることも初めての経験だった。

しかしここに葛藤がある。研究開発という明確なゴールがいつ得られるか分からないプロジェクトでは、なかなかゴールを明確に設定して、バックキャストで細かくタスクを設定することは難しい。より解くべき新規課題が次々浮上してしまったり、研究が実りあるものにならなかったりする場合は、数ヶ月間注力してきた研究課題を思い切って寝かせる意思決定が必要な場合もあるからだ。

このように、研究の進展は決して連続的に進むものとはいえないからこそ、どうしてもビジネスシーンで実践されている、アジャイルな管理は相性が悪いと感じることもある。しかしアジャイルを取り入れることで、多職能チームで各自の目線から見える課題を共有する習慣が生まれるなど、良い面も可視化されている。いかにして良い面を残しつつ、窮屈さを乗り越えていくかは試行錯誤を繰り返している状態だ。

葛藤をしながら生き続ける

ここまでMIMIGURIのリサーチャーとして活動する中で、特に乗り越えたい葛藤を語ってきた。最後にひとつ念押ししたいのは、学術的な活動で得られる達成感も格別である、ということだ。特に学会発表などで、研究を深めるためのコミュニケーションをとっている際の楽しさは計り知れない。企業実務的な活動も学術的活動も、異なる種類の達成感が得られるといまは感じている。

入社から二年が経過し、自分は日々一つ一つにつまずきながらも、試行錯誤しながら前に進めている。しかし、こうしたつまずきはありながらも、同僚や上長も「こうすべし」という規範を押し付けるわけでもなく、「なるほど、西村さんはこういうことにモヤモヤしているんですね」と共に自分自身の課題に向き合って頂けていて感謝している。加えて研究員として所属しているラボの佐倉統先生にも葛藤を開いているが、一つ一つぶつかっている壁やモヤモヤについて聞いて面白がっていただけていることも有難い。

直属の上司がいうには、いま変容を遂げている過程だろうから、そのときの葛藤を開いて貰えることは嬉しいと語っていた。余談であるが、この「もやもや」を開示する週次ミーティングから、KPTのProblemをMoyamoyaに変えてみるというフレームワークであるKMT(ケモティー)が生まれた。

自分自身もこうした課題は、民間企業で研究に携わるからこそ直面しうる現象と捉え、次々と現れる「葛藤」をじっくりと観察するようにしている。

そもそも上の葛藤は、自分自身が、民間企業という環境に適応しようとする試みの中で、仕方なく現れてしまっているものだからだ。ただ、環境への適応に向けてもがき続ける中で、自分が学部時代、そして大学院時代を通して一度形成された考え方を捉え直し、より新しい自分に出会えていくような感覚もある。

一つ具体例を紹介する。リサーチャーではない先輩からよく「西村さんって、実はこういうことも出来るんじゃないですか?」という提案をしていただくことがある。2022年から23年にかけて取り組んだ、MIMIGURIの新たな人材育成制度の改訂プロジェクトにアサインされた時もそう呼びかけていただいた。

時にその提案は、研究として求められる職域を超えているんじゃないかとモヤモヤすることもある。でも着手してみると、組織現状の把握にこれまで学んできた調査手法が役に立ったり、社内状況を全体的に捉えて説明可能にする上で、過去に読んだ先行研究が活かされる場面があったりした。

プロジェクト成果としての人材育成の仕組みが全社に公開され、社内実装に向けて舵が切られたときは、学術的な活動で得られるものとは異なる種類の達成感を感じられた。上司のいう「こういうことも出来るんじゃない?」は、自らを枠に閉じ込めていては見えてこなかった可能性だった。

当時作成した人材育成の枠組みについては、経済産業省の「大企業等人材による新規事業創造促進事業(創造性リカレント教育を通じた 新規事業創造促進事業)」の事例集にも掲載されている。自分のつくった枠組みが、社内を飛び出してロールモデルとして評価いただけたことも非常に嬉しかった。

つい大学院で研究をしていると「大学での研究内容=自分のできること」だと思ってしまうこともある。そして卒論や修論など自分がやってきたことを活かせる仕事はないかを探してしまう。就活をする時も「自分の研究が活きる職場はないだろうか」とそういう観点で考えていた。

しかし自分が想定している以上に、他者からは「実はこういうことも出来るんじゃないですか?」というポテンシャルが見いだされることがあるらしい。その「想定外」を専門外と捉えるか、アイデンティティを拡張するための挑戦機会と捉えるかは、結局のところは自分次第である。

自らのアイデンティティを拡張しつづけるべく探索し続けた結果、3年後、5年後も自分が研究を続けているかは分からない。入社当時のミッションとは異なるものに向かっている可能性もあるし、より自らの潜在能力が発揮できる仕事がいわゆる「研究」の外に見つかるかもしれない。しかし、自らこうした変化もまた環境への適応の結果であると認識した上で、日々の経験を内省しながら前進し続けたい。

2024年3月、自分はより実務に見識を広げたいと考えて、志願してコンサルティング事業部との兼務を開始した。現在は週3日は対企業(BtoB)のコンサルタントとして活動し、研究業務は週2に減らしている。やはり環境を変えることでやはり新たな葛藤が生まれ続けてはいる。また変わり続けることは自分にとってプラスなだけではなく「変わってしまった」とマイナスに捉えることも多かれ少なからず存在する。

それでも、環境への適応から生ずる葛藤を捉え続けること、その葛藤を面白がる余裕を持ち続けることを今後も大切にしていきたい。

謝辞

本記事の執筆にあたり編集を担当頂きました、一般社団法人デサイロの小池真幸さま、石田哲大さま、岡田弘太郎さま、古島海さまに感謝申し上げます。

この記事は、一度デサイロさんというメディアで公開する予定で進めていましたが、世に出す勇気が無くなって没にした記事です。社会に出たばかりの浅い経験の自分が、まるで色々知ってるかのように語るのは30年早いと思っていたからです。

しかし先日、福岡で開催された学会に参加した際に、複数の大学院生さんから「企業で研究をするってどんな感じか教えてください」と興味を持っていただきました。過去に記事に書いた話を少し語ったところ、「記事もぜひ読んでみたい」とリクエストもいただきました。自分の個別的な経験が、誰かの進路を考える糧になるならと考えが少し変わり、デサイロさんに改めてご相談し、個人のnoteとして記事化することにいたしました。

カジュアル面談をやってます

MIMIGURIのリサーチャーの求人は開いてますが、研究をする以外にも、自分のこれまでの研究を使ってみたい、新しいポテンシャルがどこにあるか見つけたいという方は、ぜひともカジュアル面談にお申し込みください。

また、学生の方に関してもカジュアル面談の相談をいただくこともあります。「関心がある」と素直に言ってもらえることは嬉しいことですし、カジュアル面談の機会で「実はこういうことも出来るんじゃないですか?」をお互いに見つけあう機会になれればと思っています。


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