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父のこと

先日、NHKの番組で、宮崎県の埴輪についての特集があった。

家にも宮崎の土産モノの埴輪があったなぁと思い出し、人形ケースから取り出してみた。

この人形ケースには、九州や沖縄、東北の土産物の人形やコケシが沢山詰まっている。
父が営業時代に全国を回っていた時に買い集めたものらしい。
父は可愛いモノを愛でるタイプではないので、不思議に思っていた。

そして、人形ケースのお人形達を片目で見ながら、いつか機会があったら、捨ててしまおう、とも目論んでいた。
断捨離が大切って、巷では言われているし。

現在の父は高齢で既に退職しており、家で半ば引きこもりのような生活をしている。

ルーツを辿ると、父の実家は歯科医を開業しているが、なぜか父はそれを受け継がなかった。
祖父は父にも歯科医になってもらいたかったらしいけど、それを押しきってサラリーマンの道に進んだのだ。

お坊ちゃん育ちの父が、上下関係の厳しい会社と言う社会で働くのは、ある意味チャレンジだったのかもしれない。

けれど、現役時代の父は子供には滅多に怒らない、優しい人だった。
出張が多く、家を空けがちで、仕事のイライラを家庭に持ち込む人ではなかったと思う。
その分、母はピリピリしていて厳しく、わたしの幼少期は灰色だったけど。

最近の父は、昔とうって変わって、家族にしつこく現役時代の話を自慢気にするようになり、本当に鬱陶しく思っていた。
自分の人生を誰かに認めてもらいたい、と言う欲望すら感じた。

けれど、人形ケースの可愛いお人形達を眺めてうちに、父が出張して営業活動や交渉ごとをしている合間に、地方のお土産ものをひとつずつ買い集めた姿が目に浮かんできた。
そうしたら、もうちょっと父の人生について、聞いてみたい、という気持ちになってきた。

父は大企業に勤めていた訳ではないので、社会的地位は、歯医者に比べれば大したことないのかもしれない。
けれど、その経験値はどんな人生に於いてもかけがえのない、ただひとつの宝物だ。

何より、わたしや弟をこの世に誕生させてくれただけでも、ありがたいことではないか。

可愛いお人形達が、無言でわたしに伝えてくれたこと。
だから、人形達を断捨離するのはやめようと思う。父の人生の縮図のようなものだから。

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