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レベッカ・ブラウン「体の贈り物」

読書の秋ですね。
私は夏はあまり活字にのめり込めないのですが、秋になると、本を読む時間が至福になってきます。
感受性が豊かになるのでしょうか?

さて、先日この本を書店で見つけて、読みました。
11の短編がオムニバスになっていて、エイズ患者のお世話をしているホーム・ケア・ワーカーから見た風景が淡々と描かれています。
柴田元幸さんの訳で読みやすいのもあり、以前女性誌「オリーブ」に掲載されて、反響をよんだらしいです。

この小説の文体は、感情は控え目、代わりに登場人物の表情や動きや生活用品などが鮮やかに描かれていて、まるで映画を見ているように読むことができます。
また、行間の余白を感じさせる会話も素晴らしい。
読者は自由にその情景の中で心を動かすことができます。

本を読み進めるうちに、介護の在り方や患者との距離感、死に向かっている人々に寄り添うこととは?、など、色々考えさせれます。
しかし、患者たちが亡くなっていくのにも関わらず、なんとなく心が温かくなるような、ちょっとした希望を感じさせてくれるところがあります。
それが、この「贈り物」という題に込められているのかもしれません。

ケア・ワーカーの主人公が受け取った贈り物は次の11になります。

汗の贈り物
充足の贈り物
涙の贈り物
肌の贈り物
飢えの贈り物
動きの贈り物
死の贈り物
言葉の贈り物
姿の贈り物
希望の贈り物
悼みの贈り物


登場人物の一人、コニーが亡くなる前に言った言葉、、、

「誰かに腹をたてたままとか、誤解を抱えたまま死んでいくのって嫌よね。生き残った人はうしろめたい思いをさせられるし、そうなると死んだ人を想って悲しむのは難しいもの。悲しみって必要なのよ。悼むってことができなくちゃいけないのよ」

患者さんがあちらの世界へ旅立つときに、身の回りのお世話をする人の方が教えをもらう、、そんな豊かな死の迎え方もあるのですね。

死は本来は身近にあり忌み嫌うものではなく、もっと尊厳があることなのかもしれません。
その尊厳みたいなものが、死を目前にした人々からプレゼントされるこの短編集、本当に贈り物でした。

どんな状況、人であってもその人生はかけがえのないもので、遺された人に置いていけるものがある、、

そしてもう一点、主人公のケア•ワーカーとしての、プロ意識も印象的でした。
どこまで相手の領域に踏み込んでいいのかという課題は、介護やボランティア活動をされている方で共感される方も多い気がします。
また、実生活の人間関係でも心に留めておきたい事柄です。

ありがとうございます!これからもお役に立てる記事を投稿していきます。