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村上春樹「一人称単数」

村上春樹さんの最初の頃の小説は「僕」が主語の一人称小説が多かった。それから、だんだん三人称の小説に転換していくのかな?と思っていたら、「騎士団長殺し」で一人称小説に戻ったので、ちょっと驚いた。

そして、今回の久しぶりの短編小説集は「一人称単数」だったので、この流れは変わらないのかな、とも感じた。
個人的には一人称でも三人称でも村上さんの小説は好きだし、何を書こうと作家の自由だとは思うけど。

ところで、この短編小説集の中で特に好きなのは「ヤクルト・スワローズ詩集」と、「謝肉祭」だ。

「ヤクルト・スワローズ詩集」は、小説と言うよりエッセイ。
村上さんがスワローズの忠実で熱心なファンなのは読者の中では有名だと思うけど、その経緯が詳しく書かれていて興味深い。
神宮球場ののんびりした雰囲気、試合で負け続けて

人生の本当の知恵は「どのように相手に勝つか」よりはむしろ、「どのようにうまく負けるか」というところから育っていく。

という哲学に行き着いたこと。
村上さんが小説で新人賞をとった年に、スワローズもリーグ優勝、日本シリーズで制覇したことからご縁を感じていること。
スワローズ詩集を自費出版したこと。
などなど、なるほどなー、何かのファンになると言うことはこういうことなのか、と思った。
また、このエッセイでもお父様のことに触れられていたのも印象的だ。

そして、湿っぽい話しではないのに、このエッセイを読んでなぜか涙が出た。

「謝肉祭」は、以前、村上さんがエッセイで触れていた、シューマンのピアノ曲「謝肉祭」をモチーフにした小説だ。

そのエッセイで、村上さんがこの曲のルービンシュタインの演奏が好きだと書いてたが、主人公も同じ評価をしていたので、まるで春樹さんの分身であるかのように感じてしまった。

洒落た設定や人物描写、思わぬどんでん返しの結末、引き込まれる小説だ。
わたしの印象では、一番村上さんらしいエッセンスがあるような気がする。

この短編集を読んで思ったのは、村上さんが小説のネタのキャビネットを増やすことより、自分の記憶や積み上げてきたものを、より深く洗練された形で物語にされたのかな、ということ。

次回の長編小説も楽しみです。

P.S.
先日、TVでスガシカオのライブを見ました。
その歌詞を読んだら、村上さんがスガシカオが好きな理由が分かった気がしました。
彼のように「盛っていない」詩を書く人は、日本では稀ですね。


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