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発酵の旅

【書けなかったこの2年間のこと④】

 僕は妻の実家のある横浜に住民票を移してから数日後に発酵の旅に出た。

 大好きな発酵を肌で感じたかったし、健康を取り戻す鍵も発酵しかないと思っていた。

 味噌、醤油、味醂、鰹節、塩納豆や鮒鮓に至るまで毎日、発酵の現場を訪ね歩いた。

旅の先々で粕汁もよく頂いた。身体が吸収しやすいのだろう。とても元気が出た。

 毎日一万歩以上歩いたので、どんな発酵食品が栄養につながるかを実感できた。

 僕の命も発酵している。
 人生は発酵し続けることなのだと思った。

酸っぱい発酵ご飯も、身体が喜んでる実感があって、とにかく嬉しかった。

 そして気がつけば旅の出発から2ヶ月以上経っていた。問題は旅費が底をついた事で選択肢は以下に限られた。

 ①がん保険CMの出演オーディションを受けてアフラックからお見舞金をもらう。
 ②寅さんの衣装で『発酵毛だらけ猫灰だらけ』とか口上して露天商で稼ぐ。
 ③『ふなっしー』ではなく、胃のない、ゆるキャラ『いなっしー』としてデパートの催事で稼ぐ。

 だけど、どれもとことん現実的ではなかったし、全然面白くもなかった。

ダメ押しに嫁の実家の方から
『テレビ録画の空き容量がないので、精ちゃんの好きな【ザ・ノンフィクション】を全部消去してもいいか?』とつれない連絡が入った。

それだけは嫌だった僕は、泣く泣く各駅停車で帰る事にしたのだった。

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