見出し画像

聖地巡礼とは何なのか?宇治へ行き、帰ってから考えたこと

5月末に京都の宇治へ行ってきました。
京都には何度が足を運んでいるものの、宇治市という場所を訪れるのは今回がはじめて。
私は旅行先に選ぶ基準を「その場所に2つ以上の目的があるかどうか」としています。
宇治市にゆかりがあるもので、私の好きなものが「源氏物語」「響け!ユーフォニアム」「抹茶」「平等院鳳凰堂」と4つもあることが分かりました。
ならば行ってみようかな、と軽く思ったのが旅の始まり。

さて、JR奈良線宇治駅に到着。
アニメ「響け!ユーフォニアム」を見ている人は、そこかしこに既視感を抱きます。
「響け!ユーフォニアム」は高校の吹奏楽部を描いた小説で、何度もアニメ化・映画化されている超人気作品ですね。
舞台を作者・武田綾乃先生の出身地である京都府宇治市としていることから、作品内には実在する宇治の風景が登場します。
アニメではその描写はより鮮明に。
実際の景色と見比べてみると、京都アニメーションの風景描写の緻密さに驚かされます。

これまで聖地巡礼というものをほとんどしてこなかったのですが、最近になって「ユーフォ」にドはまりした私は、作中に出てきた宇治橋や宇治上神社、大吉山 (仏徳山)展望台などに行ってみたいと思いました。

宇治橋。「ユーフォ」主人公の久美子が、(演奏が)上手くなりたいと泣きながら走ったことから「上手くなりたい橋」などとも呼ばれている。

アニメやドラマの撮影現場、モデルとなった地を訪れる行為、いわゆる聖地巡礼。学術的にはコンテンツツーリズムと呼ばれています。

コンテンツツーリズムとは、(中略)「コンテンツ」を動機とした観光・旅行行動や、「コンテンツ」を活用した観光・地域振興を指す語と言える。

『コンテンツツーリズム研究』 岡本健編著 福村出版

先ほど「行ってみたいと思いました」と書いたものの、その気持ちの正体は何なのでしょうか?
実際に「ユーフォ」ゆかりのスポットを訪れてみましたが、なんでしょう、このときはまだ自分でもよくわかりませんでした。

傷心の葉月をモチーフにした「飛び出し坊や」。

「ユーフォ」の舞台をいくつか回ったので、他の観光スポットも行ってみることに。

宇治は源氏物語「宇治十帖」の舞台でもあります。
「宇治十帖」とは、全54帖で構成される源氏物語の最後を飾るいわば「源氏物語ファイナルシーズン」。
それまでの主人公であった光源氏没後のストーリーで、源氏の息子・薫や外孫・匂宮を中心に描かれています。

宇治には「浮舟」や「総角」など、十帖それぞれを題した石碑や立て札が点在しています。
すべては巡回できませんでしたが、薫や匂宮、浮舟など登場人物や和歌の解説を記した場所は、まさに聖地巡礼(コンテンツツーリズム)用のスポットといえるでしょう。
千年前の「源氏物語」と21世紀の「響け!ユーフォニアム」。
それぞれに思いを馳せる人が、今日もたくさん宇治を訪れているのでしょう。
あらためてコンテンツツーリズムの歴史の長さを感じますね。

宇治十帖 巻四十七 「総角(あげまき)」

ほかにも「源氏物語ミュージアム」という立派な博物館があり、外国人観光客も文化に触れやすい工夫がされていました。
聖地巡礼を全面的にバックアップしていることが分かります。

さて、逃げずに聖地巡礼の心理的動機について自分なりに考えてみます。
家へ帰りしばらく経って、また普段通りの生活を送り、あらためて考える。

結局のところ私は、ユーフォや宇治十帖の景色を見て「よし、実在しているな」という確認作業をしに行ったのかなと思いました。
自分が心動かされた作品は「ある風土から生まれたもの」だという、当たり前だけど実感の沸きにくい事実を確認をするための作業。
その作業をすることで、なんだか作品が自分の中でより強く残る気がします。
イコール、より強く作品を心に残したいがゆえに聖地巡礼をした。そのように、ひとまず結論付けておきます。

宇治市観光センターには「ユーフォ」の交流ノートが何冊も置かれていました。
そこには何も残さなかったけれど、今にして思えば何か書いておきたかった。
次に行くことがあれば、その言葉を考えておこう。


≪参考資料≫
『コンテンツツーリズム研究』 岡本健 編著 福村出版

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?