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子どもと大人のハラスメント

学童クラブに勤めていた時、子どもとのやりとりで違和感を覚えたことがある。

「あー、内緒話しちゃいけないんだー!」

鬼の首を取ったかのように僕に指摘をした二年生の女の子がいた。

僕は別の子に耳打ちをしていた。
確かその子の誕生日が近くて、その関連で、こっそり伝えたい事があったのだと、思う。

本当は「いや、別にいいじゃん」と思ったが、たぶん学校で内緒話はいけないよ、と指導されているんだろう、と思い、「そっかごめん気をつける」とだけ言った。

「大人なのにそんなことも分かんないんだー」とその子は言った。

その言葉の方が傷つくよ、と喉まで出かけて、ぐっとこらえた。

…………


内緒話をしてはいけない理由は、たぶん、誰かを仲間はずれにしてしまうからだろう。そのつもりがなくても、内緒話をされた側は、秘密にされた側は疎外感を感じるから。
だから、ダメなんだろう。
その通りだと思う。確かに、内緒話をされて、それを教えてもらえなかった側の子は傷つく。嫌な気持ちになる。それを学校では伝えたのだろう。

でも、どんな場面でもダメか、というとそうではないと思う。

…………

昨日のことだ。

保育園で、楽しい食事中。とつぜん泣き出した女の子がいた。
聞けば、「鼻くそが鼻から出ているよ」と隣の子に指摘されて、「鼻くそ」という言葉に反応した周りの子達が笑ってしまったらしく、みんなから笑われたのが嫌だったようだ。

泣いている子に「それは嫌だったね」と寄り添い、鼻を拭きつつ、「みんなの前で言われたら嫌な気持ちになるよ」と隣の男の子に伝えた。

「でも鼻くそ出てるじゃん。どうすればいいの」と彼は言う。

「それはさ、こうするんだよ」
と、僕は手をその子の耳に近づけ、小さな声で「鼻くそが出てるよ」といった。

「こうすれば、こっそり伝えられるでしょ?」

…………

要はケースバイケースなのだ。

「内緒話」がいけないのではなく、「それをすることで誰かを傷つけてしまうこと」が、いけないのだ。

内緒話を禁止すれば、確かに、内緒話をされることで傷ついてしまう子は生まれないだろう。

でも、単に行動を禁止してしまうと、別の問題を生まないか?
それは、考えなくなること。

どんな場面でも、単に”内緒話”はいけないんだ、と理解してしまうこと。

”そんなことも分からない大人”がいたら、小馬鹿にしてもいいと思うこと。

僕はそのようなグレーな行動言動については一律禁止にするのではなく、良い時もあれば悪い時もある、と。

ケースバイケースであることを伝えればいいんじゃないかな、と思う。

………

大人の世界でも、似たような話はある。

先日聞いた話。
友人の勤める会社で「ハラスメント防止研修」があったそうだ。
元々そういったことには意識が高い社風だったけど、研修でよりハラスメントを気にして行動するようになったらしく。
それ自体はとてもよいことに思うけど、問題はその内容だ。

例えば、上司が髪を切った女性社員に対して
「髪切った?あ、ごめん、これを聞くのはセクハラになるんだったモゴモゴ…」

といった調子という。
よくも悪くも気にしすぎてしまっているのだ。

思うに講師から「髪型に触れるのも状況によってはセクハラになります」みたいな話があったんたろう。

確かに髪を切ったことを言われて嫌な思いをする人は、いるかもしれないけど、それって、やっぱりケースバイケースでしょ。

髪を切ったことをキッカケにコミュニケーションが広がるかもしれないし。
相手との関係、性格、状況、あるいは嗜好をふまえて、判断するべきことと思う。
例えば僕だったら、髪を切って職場に行った日に、誰にも全く触れられなかったら、その方が寂しいと感じる。

たぶんその研修でも、「何より相手の気持ちが大事。相手が嫌がっているか感じましょう」
みたいな話はあっただろうと思うけど、
でも、結果として話を聞いた上司が、そんな風に受け取って行動してしまうなら、はっきり言って無意味なんだ。

なにやってんだよ。大人。と思った。

………

話を戻して、一方の子どもは。

子どもは、大人が思っているよりずっと周りを見ているし、考えている。

人(大人、子ども)の目や、雰囲気を感じ取って、状況を見て行動している。4,5歳でも、3歳でも、2歳でも。

例えば、いつでも出来る訳ではない遊びは、今だったらいいかな、というタイミングで大人に声をかけてきたりする。

また、じゃれあい、ちょっかいみたいなこと、あるいは(大人の世界ではハラスメントにあたるような)いたずらな言動は、相手を選んでAちゃんにはダメだけど、BちゃんにはここまでOKみたいな感じで繰り出したりしている。
(その距離感の図り方を間違えてしまうと、前述したような相手が泣いてしまったり、トラブルになったりする)

本当に見ているとこっちが勉強になるくらい、子ども間のコミュニケーションは面白い。
その瞬間瞬間も面白いし、毎日の積み重ねで微妙な変化があるのも面白い。
ドラマ程分かりやすくないけど、深みがあって、こんな面白い人間模様を毎日見られるって保育士の醍醐味だな、と思ったりする。

脱線したけれど、
だから、ケースバイケース。
誰にでも、いつでもダメなわけじゃない。
何事も状況次第。いい時もあるし、いけない時もある。
相手がそれをしたらどう思うか、考えて行動しよう。ということ。

そう伝えたら、子どもたちは十分分かると思うし、これからもまっすぐ伝えていきたいと思う。

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